凱旋門賞ですの。
公式のレートではHukum58.0、Westover57.5の古馬2強に3歳のAce Impact55.5が続いているといった風で、そのあとまた古馬のBay Bridge55.0となる。3歳の層がやや薄く見えるが、これはEpsomとCurraghのDerbyを勝っておきながら10Fに向かったAuguste Rodinに起因するところも大きいか。日本から遠征したThrough Seven Seasは53.0でSimca Milleと並んでおり、かなり高い評価に見える。
追加登録してきたContinuousは54.0、Fantastic Moonは53.5でこれで格好がつくかといったところ。
Sisfahan: Isfahan - Kendalee by Kendargent
5歳牡馬
2021年のDeutsches Derbyを勝ち、GP BadenでもTorquator Tassoの2着となって期待されたが、その後G1で壁に当たっている。今年は年明けから中東遠征に出て、サウジアラビアではRed Sea Turf、ドバイではDubai Gold Cupと長距離戦を選択していたあたりは迷走といってよいような状況に陥っていた。ドイツに戻ってからはクラシックディスタンスに戻りHoppegartenのGP BerlinではSimca Milleの2着と復調したかに思えたが、前走のGP Badenは6頭立てで最下位に終わり、苦しいキャリアである。
父がIsfahan、祖父Lord Of EnglandがともにドイツのG1馬で、自身のキャリアもドイツが中心であることからドイツっぽさが強いが、母系はアメリカからフランスに入ったものであり、本馬自身もフランス産馬である。むしろ母系にはドイツ要素は皆無と言える。
Haya Zark: Zarak - Haya City by Elusive City
4歳牡馬
古馬になった今年にG3を2勝しているが、G2ではSimca Milleに歯が立たないというレベルである。
Onesto: Frankel - Onshore by Sea The Stars
4歳牡馬
去年のGP ParisではSimca Milleを下してG1勝利、Irish Champion SではLuxembourgの2着として挑んだ凱旋門賞でも悪くない評価を受けていたが後方から特に目立つこともなくレースを終えた。ジャパンカップにも遠征してきたが、直線で前の馬をさばけず7着だった。
今年は夏のDeauvilleのマイル戦で復帰し、去年と同じくIrish Champion Sからの臨戦となるが、そのLeopardstownのG1で7着では期待薄である。
父がFrankel、母の父がSea The Starsということから分かるようにUrban Seaの3×3を持つことに加えて、祖母Kalimaは名牝Hasiliの全妹と隙がない。母父としてGalileoの存在感が増大している現状でUrban Seaクロスは頻出になる可能性がある。何と言ってもUrban Seaは父LammtarraでもMelikahを出してくる化け物ポテンシャルだということを忘れてない方がよいだろう。
Onesto自身は軽くてスピードをだせるコースが良いのではという印象はある。2400mの距離もちょっと長いのではないかという懸念もある。
Simca Mille: Tamayuz - Swertia by Pivotal
4歳牡馬
去年はPrix Nielを勝った後、凱旋門賞をスキップしてジャパンカップに挑んだが15着と惨敗してしまった。とはいえ、フランスのトップに定着して以降の戦績はジャパンカップ以外安定しており、前走のGP Berlinでは念願のG1タイトルを手に入れた。頂点のレースでは厳しさが勝つもののIresineと五分に渡り合い、Prix GanayではBay BridgeやVadeniにも先着し、通常のG1級としてはよくやっているように思う。
父TamayuzはNayefの産駒でGulchの直系を現在に伝えている。その母系はAllegrettaに由来し、GalileoらUrban Seaファミリーの近縁である。Simca Mille自身は8-f族のAd Altioraの直系であり、Sarafinaを近親に持っている。Haras Du Pereilleのオーナーブリードになる傑作。
凱旋門賞となると更なる上積みが欲しいところではあるが、当馬で自身にとっても悲願のG1初制覇を果たしたStephane Wattel調教師は、厳しいコンディションになるキングジョージを回避させ、凱旋門賞にもレース間隔に少し余裕があり消耗を抑えるHoppegartenのGP Berlinを前哨戦に選択して準備を整えた。
Bay Bridge: New Bay - Hayyona by Multiplex
5歳牡馬
去年、連勝でRoyal AscotのPoWに出走して話題をさらったもののState Of Restの2着におわり、その後は普通に強い中距離ランナーというところで落ち着いている。British Champion S勝ちでG1に届いた。
2400mに経験がなかったが、前走でKemptonのAW重賞September Sに出走して距離についてはクリアした形。September SはEnableがプレップに使っていたことで知られているが、まあ、凱旋門賞に直結するものではない。
血統面では何度も触れているが、Deploy=Shirley Valentineの同血クロスを見るよりも、Sadler's WellsとMill Reef、Shirley Heights親子の組み合わせに注目する方が有用である。父New BayはOasis DreamやKingmanの近親でDancing BraveとSadler's Wellsが入るとBeat Hollowが出てくる。New Bayも中距離を主戦場とした。
Westover: Frankel - Mirabilis by Lear Fan
4歳牡馬
Irish Derbyの勝ち馬で去年はその後キングジョージ5着、凱旋門賞6着と不本意な結果だったが、今年になるとDubai Sheema Classicに出走してEquinoxの2着で始動し、欧州路線が始まるとCoronation Cup2着、GP Saint-Cloud勝ち、キングジョージ2着と上位でまとめてきた。キングジョージではHukumを追い詰めるもアタマ差及ばずといった結果で、去年に続き凱旋門賞への直行で逆転を狙う。
父Frankelで2400mスペシャリスト。牝系は傍流ながら北米の名門23-bで土台がしっかりしている。NursemaidのところでLuke McLukeを使ってDominoを固めたのがポイントになってそこにCount Fleetで欧州血統を入れたJuliet's NurseはGallant Romeoらの母となった。Westoverの五代母となるWoozemもその活躍馬の一頭で、この系統からはWestoverの伯母にNebraska Tornadeが出る他、今年になっても南アフリカのAnfields Rocket、チリのIonosferaとG1馬を出して優秀性を示している。今年の2頭のG1馬はいずれも母父にGalileoを持ち母側にRainbow Quest、父側からStorm Catが入るが、Westoverの場合はやや血統的に古くStorm Catが不在になる分をFrankelで足りるかといったところだが、Rainbow Questがちゃんとあるしまあ十分には見える。
Hukum: Sea The Stars - Aghareed by Kingmambo
6歳牡馬
キングジョージでWestoverを下して現役古馬トップを名乗る資格を得た。3歳の頃はSt. Legerに出走しているし、その後もエクステンドのカテゴリーにも出走していたが、ケガから復帰した去年からはクラシックディスタンスに定着した。
1つ下の全弟がマイルの絶対王者だったBaaeedでであるが、少し長距離にはみ出すHukumの方が本来のSea The Stars産駒の姿である。そもそもマイル路線のトップでやりあえるSea The Stars産駒なんてのはBaaeedしかいない。代表産駒にOuija Board、Sea The Stars、Golden Hornを並べるCape CrossがGreen Desert父系としては一線を画した存在だという理解は必要かと思う。
Place Du Carrousel: Lope De Vega - Traffic Jam by Duke Of Marmalade
4歳牝馬
去年はPrix Saint-Alaryを2着程度の実績で出走したPrix De L'Operaを勝って驚かせた。NashwaやAbove The Curve、Tuesdayを喰ったのだから大したものであった。今年はPrix Ganayでは5着に終わっているが、DeauvilleのG2を勝って、前哨戦は牡馬相手のPrix Foyを選択して2400m戦初挑戦であったが勝ち切った。これで凱旋門賞出走の目途が立ったということになるが、HukumやWestover相手はもう一段上が必要と思われる。
父Lope De VegaはShamardal産駒でフランス二冠馬。アイルランドのBallylinch Studで種牡馬入りしたが、産駒もフランスでの活躍が多い。もっとも産駒は中距離まででの活躍で2400mは少し無理がありそう。
牝系は1-d族のNoble LassieからVive La Reineに流れるラインであり、同族にLillie Langtryのファミリーが出ている。
Through Seven Seas: Dream Journey - Mighty Slew by Kurofune
5歳牝馬
前走が宝塚記念2着からの臨戦となる謎の遠征馬。イクイノックスをあと少しまで追いつめたと言って通じるのかどうか。あるいはOrfevreの兄の仔が来たと言う方が通るのだろうか。
2400mでの出走はオークスのみでこの時は9着に終わっている。
祖母Slew AllはAllen Paulsonの生産馬で、彼の死後に他の所有馬と同じく2000年のKeeneland Novemberで放出された。Theatricalを受胎中の繁殖牝馬を30万ドルで落札したのがノーザンファームであった。日本に輸入されたSlew Allがクロフネを父として生んだマイティスルーは4勝を挙げて引退し、繁殖入りするとパッシングスルーとスルーセブンシーズを出している。
Slew Allの配合はPokerのクロスが特徴的であるが、なかなかに使いこなすのは難しい血だと思う。PokerはA.P. Indyでの使い方が凄すぎるだけなんだよな。
Free Wind: Galileo - Alive Alive Oh by Duke Of Marmalade
5歳牝馬
Gosden厩舎はEmily Upjohnを下げてしまったため、このFree WindがL. Dettoriの凱旋門賞ラストライドとなる見込み。やや長めの距離を得意とするが中距離でも勝ち鞍がある。前走のYorkshire OaksがG1初挑戦で2着とまとめている。
Sunbitternの牝系にSadler's Wellsの2×3でDuke Of Marmaladeを挟む、その前にはKrisが入るというあたり血統表の見た目はかなりのものである。
Mr. Hollywood: Iquitos - Margie's Music by Hurricane Run
3歳牡馬
ドイツのG3 Bavarian Classicの勝ち馬。その後はUnion-Rennenで2着、Deutsches Derbyで2着というところから、GP Badenでも2着に入った。判断に困る戦歴だが、前走でZagreyに僅差というのは評価しても良いだろう。
ドイツのSadler's Wells直系でIn The WingsからAdlerflugと伸びてきた父Iquitosの初年度産駒である。母系はGestut AmmerlandがCulmetから導入したもの。Real DelightのボトムラインクロスにRaise A Native3本と強烈にAlydarを意識したアメリカン配合だったが、Ammerlandの配合により距離を延ばし2400mにたどり着いた。やはりSadler's Wellsという風ではあるのだが、Galileoを直接使うのではなく同系でMill ReefをマシマシにしたAdlerflugを使うのがドイツである。
Feed The Flame: Kingman - Knyazhna by Montjeu
3歳牡馬
GP Parisの勝ち馬。前走は王道のPrix Nielを選択したがFantastic Moonに少し差を付けられた2着に終わっている。
父Kingmanで2400mをこなすのは母側に入るMontjeuに加えてKingmamboでヌレサドクロス、Royal AcademyでNijinsky追加といったところに因るだろう。その祖母Katyushaの全兄にKingmambo産駒のSt. Leger馬Rule Of Lawが出ている。
Ace Impact: Cracksman - Absolutly Me by Anabaa Blue
3歳牡馬
今年のPrix Du Jockey Clubを勝った。そのレース振りが高く評価され、欧州3歳世代の筆頭馬という評価も受けており、早くから凱旋門賞の有力候補とみなされてきた。前走Guillaume D'Ornano勝ちでキャリア5戦全勝での参戦となるが、2400mの経験もLongchampの経験もないのはやや疑問に思うところ。
父CracksmanはFrankelの後継種牡馬一番手で、初年度産駒から大物を出した形。牝系はダービー卿の12-b族であり、Ouija Boardの同族である。母父にAnabaa Blueを配してAllegrettaがクロスする。
Continuous: Heart's Cry - Fluff by Galileo
3歳牡馬
St. Legerを勝った日本産馬。Coolmoreが母Fluffを日本に送り込んでDeep Impactを付けていたが、2019年はDeep Impactを付けることができずHeart's Cryになっている。
クラシック路線ではDante Sで3着からフランスに向かいPrix Du Jockey Clubに出走するものの8着に終わっている。Royal AscotのKing Edward VII Sで2着となって復調するとYorkのGreat Voltigeur Sを勝ち、前走がSt. Legerであった。各国のDerbyで足りなかったコンテンダーのその後としてG2の2戦はかなり王道であり、Yorkの勝ち方がよいのでそのまま凱旋門賞というのもありだったのではないかと思うが、St. Legerに回って結局追加登録という形になった。
長距離G1から短いインターバルでの出走となるが、オッズではWestoverと同等の3番手評価を受けている。今年はO'Brien厩舎からContinuousのみの出走となることも理由なのだろう。とはいえSt. Legerからの臨戦は良い結果のないパターンで、レース間隔の問題は大きい。St. Leger自体も菊花賞と並んでクラシック三冠体系の最終レグの体面を保ってG1を維持しているとはいえ出走メンバーのレベルはやはり少し落ちると言わざるを得ないものである。
Rose Of Jerichoの1-t族であり、要するに従兄にSaxon Warriorが出ている。母FluffはContinuousを日本で産んだあと、Lord Kanaloaを付けてアイルランドに戻ったようである。
血統面ではSaxson Warriorに酷似しており、Irish DanceとWind In Her Hairの違いになる。Lyphardを持つなどの共通点もあるが、やはりTony Binの存在だろう。このHyperionの塊が意味を持つ状況になることがまず必要というイメージはある。
Fantastic Moon: Sea The Moon - Frangipani by Jukebox Jury
3歳牡馬
今年のDeutsches Derby馬。Bavarian Classicで3着した後にBadenのDerby TrialからDeutsches Derbyを勝った。古馬戦となったBayerisches ZuchtrennenではNations Prideにひねられてしまうが、フランスに向かって出走したPrix NielでFeed The Flameに快勝した。
Prix Nielを勝った後に巨額の購入オファーを拒否したというニュースが出ており、その際は凱旋門賞をスキップしてBCかJCに向かうことを検討しているという状況だったようだが、天候次第でとされながらも凱旋門賞への追加登録が検討され、出走に踏み切ったようだ。
父はSea The Stars後継種牡馬Sea The Moon。ドイツ産馬でDeutsches Derbyを勝ったという経歴だが、イギリスで種牡馬入りした。28号族の名繁殖Sacarinaを祖母とし、母のきょうだいにSamum、Schiaparelli、Salve Reginaが出て、Sea The MoonのいとこにはSortilege、Seismosがいる。Sea The Starsの後継種牡馬としてはいち早く種牡馬入りし、すでにAlpine StarなどのG1馬を出している。今年はドイツのオークスにあたるPreis Der DianaもMuskokaで勝っている。
母の父Jukebox JuryはMontjeu産駒のステイヤーでドイツのGestut Etzeanで種牡馬入りしていた。現在はアイルランドのBurgage Studでナショナルハント向けの種牡馬として供用されている。
Fantastic Moonは1-e DalamaのファミリーでDarjinaらの同族である。シュタウフェンベルク伯爵によってドイツに導入されており、三代でFantastic Moonが出た。牝系のプロフィールからすると意外なほどにドイツ要素が強い血統になっている。ともにDante直系との組み合わせとなるOld Vic、MontjeuからSadler's Wellsを得ており重さが気になるが、J. O. Tobinを使ってNever Bendが組み込まれているのはプラスだろう。