Japan Cup Runners from Europe

今年のジャパンカップには欧州から4歳馬が3頭遠征してきた。そしてレース前からGoliathの主なオーナーであるJohn Stewartの言動が話題を集めているし、レース後にはJRAがAuguste Rodinの引退式を開催すると発表してこちらも話題となっている。近年のジャパンカップとしてはかなりの注目を集めるレースとなった。

ジャパンカップに出走する外国調教馬3頭はもう今更といった面々ではあるのだけど、改めて基本的な情報をまとめておこう。言うまでもないがメインストリームの現代欧州血統はGalileoの影から逃れられない。この3頭もGalileoを直接母父に持つAuguste Rodin、同系のトップラインとボトムラインからなるAdlerflugを父とするGoliath、半弟Sea The Starsの直系となるFantastic Moonといった状況である。

Auguste Rodin: Deep Impact - Rhododendron by Galileo

アイルランド産4歳馬。Aidan P. O'Brien厩舎。

ディープインパクトのラストクロップの数少ない一員でここまで15戦8勝。

2歳からG1 Futurity Trophyを勝つと、3歳シーズンはG1 Epsom Derby、G1 Irish Derbyを連勝して世代のトップに立った。シーズン後半の古馬との競走ではG1 Irish Champion SとG1 Breeders' Cup Turfを勝っている。一方で3歳初戦のG1 2000 Guineasは12着、Irish Derby後のG1 King George VI and Queen Elizabeth Sが10着と負けるレースはとことん負けるという特徴も有している。

今年はO'Brien厩舎の古馬エースを勤めていて、ドバイから始動したもののG1 Dubai Sheema Classicで12着と悪い方の目を引いた。欧州に戻るとG1 Tattersalls Gold CupではWhite Birchに不覚を取って2着、Royal AscotのG1 Prince Of Wales's Sこそ勝っているが、King George VI and Queen Elizabeth Sはまたしても惨敗となる5着で、前走のIrish Champion Sは3歳馬Economicsをとらえきれず2着とここまでG1は1勝のみにとどまっている。Irish Champion Sは悪い内容ではなかったが、今シーズンはAuguste Rodinにかけられた期待の大きさに答えたとは言い難い。

シャフリヤールとは去年のSanta Anita、今年のMeydanで顔を合わせており、Sheema Classicは参考になる結果と言えないが、BC Turfでは勝ったAuguste Rodinに対してシャフリヤールが3着だった。道中はAuguste Rodinがシャフリヤールの後ろに付け、最終コーナーで内を掬ったAuguste Rodinが直線向いたところで先頭に立ち、シャフリヤールとUp To The Markを抑えきったレースである。もうすでに一年前のレースではあるが、シャフリヤールは海外でも安定した能力を発揮するので一つの参考となるだろう。

すでにジャパンカップを最後に引退し、アイルランドのCoolmore Studでの種牡馬入りが発表されており、その初年度の種付け料は30000ユーロである。この種付け料は現在のCoolmore Studの面々を見るに妥当なところか。JRAジャパンカップ後にセレモニーを行うことを発表しているが、Auguste Rodinが日本で出走するのはこのジャパンカップのみであるし、本馬の実績があるとはいえJRAがいかにディープインパクトを特別視しているかということではあるだろう。

キャリアでG1を6勝。最後にジャパンカップを勝って上積みできるかということになる。2歳では重要なマイルのG1 Futurity Trophyを勝ち、クラシックシーズンでは英愛のDerbyを制してこの部門の頂点を極めた。さらには3歳のうちに10Fでは最も重要なIrish Champion Sとアメリカ西海岸のトラックでBC Turfを勝ったことでスピードも示し、4歳でもRoyal AscotでPrince Of Wales's Sを勝つことでその能力の継続性も見せている。

このように勝ったレースだけを並べるなら文句のつけようがないキャリアである。その最後のレースにジャパンカップを選んだのは、BC Turfを去年勝っているからということがあるにしても、陣営がディープインパクトのラストクロップということを意識しているようであり、入れ込みようがうかがえる。

ディープインパクトはAuguste Rodinによってその産駒の全世代からクラシックウィナーを輩出することになった。今更説明不要なレベルで日本の馬産を引き上げる役割を担った種牡馬である。その最終世代にして最高傑作となりうるAuguste Rodinの最後の舞台を見届けるのが今年のジャパンカップである。JRAがセレモニーを用意していることもあり、今年のジャパンカップディープインパクトに捧げられたレースであるということができるのではないか。

クールモアにはすでにSaxon Warriorが種牡馬入りしているが、2歳の実績は同等、3歳以降で上回るAuguste Rodinにかかる期待は大きい。サンデーサイレンスの偉業を継承しさらに深化させたディープインパクトであるが、Auguste Rodinは最後にして極めて重要なマイルストーンだろう。

母RhododendronはHalfway To Heavenの娘で自身G1を3勝した名牝である。2歳から4歳まで活躍し、3歳時はG1 Prix De L'Operaを勝ったほかに、G1 1000 Guineas、G1 Epsom Oaks、G1 BC Filly and Mare Turfで2着と安定した成績を残した。4歳は牡馬相手にG1 Lockinge Sを勝ったがこれが最後の輝きとなり、シーズン後半は不本意な成績に甘んじた。引退後に日本に送られてDeep Impactの最終年度の種付けに間に合った結果、Auguste Rodinを得た。

母方は3-d族の名門Beaver Streetのファミリーに属し、アメリカでDr. FagerとMr. Prospectorからスピードを得たFager's Gloryの分岐である。三代母Cassandra GoはTrever C. Stewartが所有し、Halfway To Heavenを出して名を上げた。Halfway To HeavenやTheannはCoolmoreの手に渡っているが、Tickled PinkからVictoria Roadを出すなど現在でもTrever C. Stewartの基幹牝系である。Halfway To HeavenはAuguste Rodinの祖母であり、自身がG1を3勝した名マイラーであった。繁殖入り後はRhododendoronとその全妹Magicalを出した。MagicalはIrish Champion Sを連覇するなどG1を7勝、繁殖入り後すると初仔Ballet SlippersがG1 Fillies' Mileで3着となり、母としてもすぐれた能力を見せている。

今回、Aidan O'Brien自身が週中の調教から立ち合いに来日しているのに加えて、息子のJosephとDonnacha、CoolmoreからはトップのMagnierとPaul Smithが現地観戦し、レース後のセレモニーにも出席すると報じられている。

Goliath: Adlerflug - Gouache by Shamardal

ドイツ産の4歳馬。フランスのFrancis H. Graffard厩舎。Schlenderhan牧場の生産でUllmann男爵をオーナーとしてデビューした。

3歳になってフランスSaint-Cloudの未勝利戦をデビュー勝ちすると、Clairefontaineで条件戦、Listedと連勝し、Longchampで重賞初挑戦となるG3 Prix Du Prince D'Orangeに出走しHorizon Doreの4着となってシーズンを終えた。4歳になった今年はLongchampでG3 Prix D'Hedouvilleを勝ったが、ChantillyのG2 Grand Prix De ChantillyはJunkoの4着とこの段階ではそこそこ重賞レベルの古馬という立場であった。ところがイギリスに遠征し、Royal AscotのG2 Hardwicke Sで2着となると、続けてG1初出走となったKing George VI and Queen Elizabeth Sでは直線突き抜けて2着Bluestockingに2馬身差をつけて快勝した。人気薄での勝利ではあるもののその勝ち方が鮮やかであったことで一躍古馬12F路線の有力馬となったが、去勢されているため凱旋門賞路線には向かわず、オーナーにJohn StewartのResolute Bloodstockが加わった陣営はジャパンカップを年内の目標に掲げた。ドイツでG1 Preis Von Europaへの出走を企図していたがこれをスキップし、LongchampのG2 Prix Du Conseil de Parisを勝利して遠征してきた。中間の調教で問題があったようだが、Longchampで走っており特に問題はないだろう。

父AdlerflugはドイツにおけるSadler's Wells直系の最大勢力であるIn The Wingsの子であり、その母系はGalileoと同系の9-h族で三代母Anatevkaが共通牝祖となる。In The Wingsに対して母父Last Tycoonが入ることでSadler's Wellsにとって重要なMill Reefが2枚入る構成の血統で、その産駒にはTorquator Tasso、Alenquer、Iquitos、In Swoopなどが出ている。

牝系はSchlenderhan牧場にとっては新参となる22-d族Guernicaのラインである。もとはGlamourを起点とするWertheimerの名牝系でGlaneuseから出たGold Riverの分岐にはGoldikovaが出るし、Guernicaと同系のGraciousの分岐にもAlexander Goldrunを得ている。GuernicaからGetawayとGuadalupeが出て、Guadalupeは繁殖馬としてGuilianiとGuignolを産んだ。Goliathはこの直系でGuadalupeの曽孫となる。GoliathにはShamardalやDynaformerを使っており、典型的なドイツ血統の重々しさはなく、むしろドイツ的な血統が強いのはGuadalupeの父Monsunくらいではなかろうか。AdlerflugにしたところでIn The WingsLast Tycoonを乗せてドイツっぽさは少々薄い。

Fantastic Moon: Sea The Moon - Frangipani by Jukebox Jury

ドイツ産の4歳馬。Sarah Steinberg厩舎。Stauffenberg伯爵夫妻の生産馬で、Lars-Wilhelm BaumgartenのLiberty Racingが所有する。

ドイツでデビューし2歳時はG3 Preis Des Winterfavoritenを勝って2戦2勝。3歳シーズンはMunchenのG3 Bavarian Classicを3着からBadenのG3 Derby Trialを勝ってHamburgのG1 Deutsches Derbyに出走した。Derby Trialで3着だった後にG2 Union-Rennenを勝ってきたStraightが人気を集めていたが、直線で外から一気に抜け出してMr. Hollywoodに2馬身の差をつけて勝利した。その後古馬相手の2000m戦G1 Grosser Dallmayr-Preisに出走し、遠征馬Nations Prideには敵わなかったが2着に入ってダービー馬の力を示した。凱旋門賞を目標にG2 Prix Nielに出走するとFeed The Flame以下を下してその実力がドイツにとどまるものではないことを見せたが、凱旋門賞では11着に終わった。

4歳の今年はドイツでG2 Grosser Preis Der Badischen WirtschaftとG1 Grosser Preis Von Badenを勝ち、Grosser Dallmayr-Preisは去年同様に2着だった。BadenではDubai Honourを下している。一方フランスではよいところがなくG1 Prix Ganayは最下位の9着に終わり、馬場の悪化で回避に傾いたが間に合わず出走となった凱旋門賞は9着だった。

大外に持ち出して伸びる競馬をしており、時には外埒いっぱいまで回してくる。それだけ馬場の良いところを好むのだろうし、今年の凱旋門賞で一悶着があったように馬場が重くなることは歓迎しない。もっとも東京競馬場の馬場が彼らの基準で重いというほどに悪化することはないだろうし、天気予報からは良馬場が見込まれ、道中のペースについていけるかの心配が大きいのではないか。

今年限りで種牡馬入りが決まっており、ジャパンカップのあとはHong Kong Vaseに遠征する可能性がある。複数の種牡馬オファーを受けていたがLiberty Racing自身が所有したまま種牡馬入りさせ、ドイツのGestut Ebbeslohで初年度の種付け料が9000ユーロと発表された。

父Sea The MoonはSea The Starsの初年度産駒で無敗のままドイツダービーを11馬身差で圧勝し、近年のドイツの3歳馬として最強の能力を見せていた。しかしGrosser Preis Von Badenで2着に終わるとレース中に故障していたことが分かり、引退してイギリスのLanwades Studで種牡馬入りとなった。種牡馬としてはAlpine Starを出してSea The Stars後継種牡馬としての地位を固めている。近親には今年G1 Grand Prix De Parisを勝ったSosieがおり、こちらはSea The Starsの前にShamardalを入れてスピードを確保したイメージ。

母系は1-e族でStauffenberg伯爵夫妻がFraulein Tobinを手に入れて以来、三代にわたり所有する牝系である。Fraulein Tobinの産駒に日本で6勝をあげたイングランドシチーがいる。Fraulein Tobinの半妹FruhlingshochzeitはJuddmonteの生産馬でその末裔にStreet BossやJack Christopherを出している。もとはBoussacの手が入ったフランスのファミリーでDarjinaやAlmanzorと同族である。

血統背景で言うとSadler's Wellsの持ち方がOld VicMontjeuでどちらもスタミナが勝ったタイプであるし、Galileoと比べるとステイヤー寄りなSea The Starsが祖父だし、母父Jukebox Juryもステイヤーというあたりで重めな印象となる。一方で快速のスプリンターJ. O. Tobinを抱えていたり、Never Bendがもう一本追加だったり、Niniskiがいるから遠いところにRidanクロスが見えるあたりにスピードを引き出す手は持っていそうである。