今年の香港国際競走は事前に時間が取れなかったので出走馬の紹介ができませんでした。記録として勝ち馬だけでも並べておきます。
Hong Kong Vase: Giavellotto
Giavellotto career profile (Racing Post)
ステイヤー路線から台頭してきた5歳のアイルランド産馬。3歳のG1 St. Legerは3着。これまでの主な実績は2マイルのG2 Yorkshire Cupを連覇していることが挙げられる。今年のYorkshire Cupを勝った後は12Fに転じて、Royal AscotのG2 Princess Wales'sを勝っている。エクステンドの距離から完全に引いたわけではなく前走はG1 Irish St. Legerに出走して3着であった。ただし、ステイヤーとはいえ2マイルが限度で少し短めを主戦場にしており、12Fもカバーしていたという戦歴である。
父のMastercraftsmanはDanehill Dancer後年の代表産駒で2歳で5戦4勝し、欧州2歳チャンピオンとなった。早熟なスプリンタータイプという見立てもあったが、3歳ではマイルから中距離で活躍し、Irish 2000 GuineasとSt. James Palace Sを勝ち、International Sで2着の実績を残した。これは同世代にSea The Starsがおり、International SはCoolmore総出でかかったものの及ばなかったともいえるのだが。
Mastercraftsmanは種牡馬としてもすぐれ、多くの活躍馬に恵まれた。その代表産駒としてはThe Grey GatsbyやAlpha Centauriが挙げられる。スプリンターよりマイルを得意とするタイプをよく出していた。初年度産駒からSt. Leger勝ちのKingston Hillのようにステイヤータイプも出せる種牡馬であるが、4000m級のレースはカバーしない。そういった意味ではGiavellottoは距離をこなすMastercraftsman産駒の典型例といえる。
母Gerikaはフランス産馬だがイタリアのLa Tesa Spaのオーナーブリードで、イタリアコネクションである。なのでGiavellottoもMarco Botti厩舎に所属している。母系そのものは3-h族でPenny Forfeitの分岐に属し、イタリアに導入されてから約50年といったところである。
母父はGalileo、祖母の父がMiswaki Ternとなっており、ここにMastercraftsmanの母父Black Tie Affairを合わせてMiswakiが3本という特徴的な血統となっている。Galileoを使った血統においてMiswakiをクロスさせるというのは時折ハマるパターン。よく見かけるのはHernandoやDalakhaniを使う構成で、その代表的なケースはAlpinistaである。Giavellottoはイタリアに縁があるファミリーということでMiswaki Ternが出てきている。また、MastercraftsmanのBlack Tie Affairもそれほど意識する部分ではないため特異な血統構成という印象を強めている。
Miswakiはミスプロ系らしくないと評されることが多いが、母父にはMr. Prospectorに好相性のBuckpasserが入り、その前がPrincequillo、Nasrullah、Bull Leaと隙のない構成であり、Mr. Prospectorの母方のNashua、Count Fleet、Bull Dogをよく受けるといえる。このMiswakiを継続的にクロスしてGiavellottoを生み出したのはさすがイタリアといったところ。
Hong Kong Sprint: Ka Ying Rising
Ka Ying Rising career profile (HKJC)
香港の4歳馬。ニュージーランド産馬でオーストラリアではMr Expressとして登録されるが、バリアトライアルに一度出ただけで香港に輸出された。香港でKa Ying Risingと名を変えて去年の12月にデビューして現役キャリアが約1年となるが、Sha Tinの1200m戦で10戦8勝2着2回。7連勝で前哨戦のG2 Jockey Club Sprintを圧勝し、今シーズン不調となっていたCalifornia Spangleに替わるスプリントスターとしてレース前から注目を集めていた。
父はShamexpress。Last TycoonからO'Reillyを通るニュージーランドの父系である。オーストラリアで現役生活を送り、スプリントG1の常連となってG1 Newmarket Hを勝ったが、それほど注目を集める結果ではなかったため血統的に縁が深いニュージーランドで種牡馬入りした。初年度産駒がデビューした2018年にファーストシーズンサイアーリーディングを獲得し、さらにその初年度産駒から古馬になって大成したCoventina Bayが現れて代表産駒となった。産駒にはスプリンターやマイラーが多いがConventina Bayは2000mまでこなしている。
母系は7-d族のConceitに遡るニュージーランドの名門で4代前のTaionaからはMr. BrightsideやPurpleが出ている。母Missy Mooはニュージーランドで5勝、中距離までのレースで活躍した。Ka Ying Risingが初仔で、翌年には父Turn Me Looseの牡馬を生んだ。Missy Mooは同年中に死亡し、Turn Me Looseの牡馬は馬名登録がされていないようだ。
母父Per Incanto、祖母の父がRhythm。
Per IncantoはイタリアのG3勝ちでニュージーランドで種牡馬入りするとスプリンターのRoch 'N’ Horseなどを出して成功した。香港でもDuke Waiなどを出してなじみのある種牡馬となっている。
Rhythmはその母がDance Number、母の半兄にPrivate Account、従弟にWoodmanがおり、自身の全妹のGet Luckyからも多数のG1馬を輩出しているLa Troienne牝系きっての名門で、Rhythm自身もBC Juvenileなどを勝っている。引退後は日本のアロースタッドで種牡馬入りしたが、のちにアメリカに戻っている。日本での活躍馬は障害重賞を勝ったレガシーロックしかいないがオセアニアへのシャトルでは一定の成功を収めており、その筆頭となるのが21世紀初頭のオーストラリア競馬で幅を利かせたニュージーランド産馬の一角でMelbourne Cupを含むG1 4勝のEtherealである。
Ka Ying Risingの配合としてはNasrullahとPrincequilloが土台になっていて、5代血統表で見えるところだけでもMill Reef、Tell、Secretariatがあり、Street Cryの母Helen StreetはRivermanを抱えていますからさらに追加。また、同じ方向性を有するSir IvorがSir Tristramなどから豊富に持ち込まれている。加えてMachiavellianからはHaloとTom Rolfeが入り、これも方向性は共通したものとなる。
Hong Kong Mile: Voyage Bubble
Voyage Bubble career profile (HKJC)
オーストラリア産の6歳馬。香港競馬は競走馬供給の最大手がオセアニアであることにより、シーズンが南半球に合わせられている。Voyage Bubbleは1歳のときにシドニーで開催されたInglisのClassic Yearling Saleに上場され、香港のR. Yiuに38万オーストラリアドルで落札された。これはDeep Field産駒のみならず、4日間にわたって開催された同セール全体でもトップの落札額であった。R. YiuのRはRickeyであり、P.F. YiuのイングリッシュネームがRickeyである。つまりはこの落札者はVoyage Bubbleの調教師その人である。古くはFairy King Prawn、その後Sacred KingdomやUltra Fantasyといった名スプリンターを育てた調教師に見いだされたのがVoyage Bubbleであると言える。
Voyage Bubbleは2歳の秋までオーストラリアで育成され、2021年5月に香港に輸入された。3歳の2022年1月にデビュー戦を迎えると3歳のうちに2勝した。4歳の後半は香港の4歳三冠に向かい、初戦のHong Kong Classic Mileと三戦目のHong Kong Derbyを勝利し、Hong Kong Classic Cupは6着だった。この三冠戦は前年のRomantic Warriorと近似した結果であり、Voyage Bubbleの先のキャリアにも大きな期待が寄せられた。三冠戦後はG1 Champions Mileに出走し、Golden SixtyとCalifornia Spangleに次ぐ3番人気に支持され4着の結果を残した。
5歳となった昨シーズンはG1路線に定着し、G1 Hong Kong MileでGolden Sixtyの2着になると年明けのG1 Stewards’ CupではCalifornia Spangleを下して待望のG1勝利を手にした。さらに2000mのG1 Hong Kong Gold CupではRomantic Warriorと直線の叩き合いの末クビ差の2着。ドバイに遠征したG1 Dubai Turfは13着に大敗したが、香港に戻ってChampions Mileの3着で立て直した。シーズンの終わりにG1 安田記念に遠征するが、Romantic Warriorが注目と期待に応えるなか直線の伸びがなかったVoyage Bubbleは17着に終わっている。今シーズンは早くも10月のG2 Sha Tin Trophyで始動して2着とすると、Hong Kong Mileの前哨戦G2 Jockey Club Mileを快勝し、香港馬のエースとしてHong Kong Mileに臨んだ。
父はDeep Field、Encosta De Lagoの直系で早世したNorthern Meteorの後継種牡馬となっている。自身はG2勝ちのスプリンターで、全弟にはShooting To Winがでる。オセアニアで一大勢力を築いているEight Caratのファミリーであり、Cotehele Houseの一門に属し、近親にはVerry Elleegantなど多数の活躍馬が出ている。香港ではHong Kong Sprint勝ちのSky Fieldが出て人気の種牡馬である。
母Raheightsはオーストラリアで4勝。9-f族Rose Leavesの大分岐でGay Rigの流れに属している。近親にはカナダの年度代表馬Never Retreatや今年G1 Santa Anita Derbyを勝ったStrongholdが出ている。
父Deep FieldはEncosta De Lagoの直系でEight CaratのファミリーとなればやはりSir Ivorの存在が浮かび上がってくる。母のListen HereにSir Ivorクロスが存在する。母Raheightsの血統はRahyにRed RansomということでHail To Reasonクロスになるが、ここではSir Ivorに対するHaloがポイントとなる。Sir IvorとHaloはTurn-To、Mahmoud、Pharamond、Sir Gallahadを共有する相性の良い組み合わせでDeep Impactにもその要素が見えるが、最も顕著なのは直接父Haloに母父Sir Ivorの組み合わせとなるGoodbye Haloだろう。またJolie's Haloもこのパターンである。
ドバイと東京への遠征こそ結果を得られなかったが香港では安定した成績を残している。Golden Sixtyが引退したマイル路線に名乗りを上げることになったのはめぐり合わせの良さもあったとはいえ、その立場にふさわしい能力を備えている。
Hong Kong Cup: Romantic Warrior
Romantic Warrior career profile (HKJC)
アイルランド産の6歳馬。香港の競馬シーズンの関係上、Voyage Bubbleより一世代上となる。Tattersalls October Yearlingの出身であるがBook 2への収載であり、事前の評価はそれほど高くない。30万ギニーでHong Kong Jockey Clubが落札し、これはBook 2としては高額だが、セール全体としてはほどほどの金額と言える。ただし、Acclamation産駒としてはBook 1を含めてもトップの落札額であった。
香港に輸入されて3歳の秋にデビューすると無傷の4連勝で4歳三冠に挑むことになった。北半球産馬となるため、香港の馬齢では半年分不利になるものの4歳を迎えているところならもう大きなファクターにはならないだろう。三冠戦ではHong Kong Classic MileとHong Kong DerbyでCalifornia Spangleを2着に下して勝利したが、Hong Kong Classic CupではCalifornia Spangleの前に4着に終わっている。三冠戦後はQueen Elizabeth II Cupに向かい、Russian Emperorを下して香港中距離路線のトップホースとなった。2022/23シーズンはG2 Jockey Club Cupを勝ってG1 Hong Kong Cupに進むと、Danon The Kid以下に圧勝してその名を轟かせた。
本馬は中距離に向かい、三冠戦のライバルCalifornia Spangleは短距離に志向したため、その路線が交わったのは2023年のG1 Stewards' Cupただ一度である。この時期の香港競馬にとってGolden Sixtyの存在はあまりにも大きかったが、前走のHong Kong MileでCalifornia Spangleに敗れて衰えも語られる時期となっていた。その香港国際競走でRomantic WarriorとCalifornia Spangleが勝利したことは新世代の台頭を感じさせるものであり、その前走の内容が評価されてStewards’ CupではGolden Sixtyを抑えてRomantic Warriorが一番人気に支持される状況にもなっていた。しかしレースではGolden Sixtyに差し切られ、Romantic Warriorは2着、California Spangleが3着という結果となっている。
さらにG1 Hong Kong Gold CupでもGolden Sixtyに差されて2着。この辺りはRomantic Warriorを当たり前に差せるGolden Sixtyがおかしいと言える。続くQueen Elizabeth II Cupで連覇を決めるとシーズン最終戦となったG1 Champions And Chater Cupは2400mの距離が堪えてこの距離を得意とするRussian Emperorの2着となった。
2023/24シーズンは海外遠征を敢行し、G1 Turnbull Sの4着をステップとしてG1 Cox Plateに出走して勝利し、中距離のビッグタイトルを手に入れた。香港に戻るとHong Kong Cupを連覇。最早香港にRomantic Warriorの敵はなくHong Kong Gold Cup、Queen Elizabeth II Cupをスイープすると、シーズンの締めくくりとしてG1 安田記念に遠征してこれも勝利した。今シーズンはG2 Jockey Club CupからG1 Hong Kong Cupと危なげなく勝利。Queen Elizabeth II CupとHong Kong Cupを三連覇、さらにHong Kong Gold Cupに加えてCox Plateと安田記念でG1は9勝。これまで香港調教馬はスプリントやマイル路線で強豪を輩出してきたが、Romantic Warriorは彼らとは少し違って海外でも実績を挙げる中距離の活躍馬として香港競馬の歴史に刻み込まれる一頭となっている。
父Acclamationは欧州のスプリント界で大きな勢力となっている父系の祖である。Royal Applause、Ahonoora、Floribunda、Tudor Minstrelという風に短距離馬で代を重ねており、自身もその血統に忠実に産駒を出すイメージである。
母はFolk Melody。10-a族の重厚な母系で、Romantic Warriorに中距離で活躍できるだけのスタミナを与えたのはこの母系である。祖母Folk OperaはG1 E.P. Taylor Sを勝っている他、イギリスで12Fや14Fでも結果を出した。Godolphin持ちの牝系でFolk Operaは直仔に活躍馬を得ることは叶っていないものの、Street Cryを父としたFolk MelodyとOpera LilyはG1馬の母となった。Opera LilyはアルゼンチンでMr. Bailettiを産み、ペルーで2600mのG1 Gran Premio Nacional August B. Leguiaを勝った。
Romantic Warriorは先行して抜け出す抜群のレースセンスと追いすがられても抜かせない驚異の勝負根性を持ち、22戦17勝としている。5度の敗戦は、逃げたCalifornia Spangleを捕まえられなかったHong Kong Classic Cup、Golden Sixtyに差されたStewards' CupとHong Kong Gold Cup、2400mで最後足りなくなってRussian Emperorに差されたChampions And Chater Cup、遠征初戦でCox Plateに向けた調整戦として出走し直線でのキレを欠き大外を回ったGold Tripに一気に持っていかれたTurnbull Sである。真っ向から負けたのはCalifornia SpangleとGolden Sixty相手の3戦でやはりRomantic Warriorを差しているGolden Sixtyの異様さが際立つものとなっている。