一時期マイルチャンピオンシップにはコンスタントに外国調教馬が参戦していたけれども、3度目のSahpresaとImmortal Verseが出走した2011年を最後に途絶えていた。13年振りの外国調教馬の出走となるCharynの実績は4歳にしてかつてのCourt Masterpieceをも凌ぐ最強のエントラントであろう。
Background
CharynはアイルランドのGrangemore Sutdが生産し、TattersallsのOctober YearlingでNurlan Bizakovに25万ギニーで落札された。Book 2への収載であったもののBook 1を含めてもDark Angel産駒としては5番目の高額での落札であった。そしてそのままNurlan Bizakovの所有馬としてRoger Varian厩舎からデビューすることとなった。
Owner
Nurlan Bizakovはカザフスタン出身で、アジア系の顔つきである。資源関連企業に関わるビジネスマンとして成功した。競馬には2010年にイギリスのHesmonds Studを購入して深く関与することになった。2019年にはフランスのHaras De Montfort et PréauxとHaras Du Mézerayを立て続けに買収するとフランスに軸を移し、統合してSumbe SASとして運営している。Sumbeとなってからは2022年にBelbekがJean-Luc Lagardereを勝ってG1初勝利を挙げ、今年から種牡馬入りを果たしている。現在他に種牡馬としてMishriff、Golden Horde、Angel Bleuを繫養しており、Charynは来年からこのラインナップに加わる予定である。
Trainer
Roger VarianはNewmarketに厩舎を構える調教師である。開業前はMichael Jarvis厩舎で調教助手をしており、その時期にマイルチャンピオンシップにも遠征したRaktiを担当している。2011年にJarvis厩舎が廃業するとこれを引き継いで開業し、1年目からNahrainを出している。その後もコンスタントにG1を勝っており、去年はKing Of SteelやAl Husnで勝ち、今年はCharynの他に1000 Guineasを勝ったElmalkaがいる。ElmalkaはNahrainの娘であり厩舎にとって縁の深い牝馬である。Charynのマイルチャンピオンシップへの遠征はVarian調教師が強く推して実現したということである。
Racing Career
Charynは2歳の8月にHaydockの6F戦でデビュー勝ちした。続いてNewmarketのNovice Sは2着、さらにNewburyのG2 Mill Reef Sが3着だった。ここまで全て6F戦で、上位にはAcclamationの直系が目立つ典型的なイギリスの2歳短距離戦であった。2歳シーズンの最後はフランスに渡ってChantillyの1200m G2 Criterium De Maisons-Laffitteを勝った。オーナーがフランスに生産拠点を持つため、フランスの生産界に対するアピールは常にレース選択に影響することになる。
3歳になるとイギリスに戻りNewburyのG3 Greenham Sで2着から2000 Guineasに出走するものの8着に終わった。立て直してさらにIrish 2000 Guineasにも出走するが4着、Royal AscotのSt. James's Palace Sは3着だった。この世代はPaddingtonがIrish 2000 Guineas以降台頭し、CharynはPaddingtonに敵わないままだった。フランスでDeauville開催が始まると1400mのJean Pratに出走、Chaldeanをマークしていたが勝負所で両馬ともに伸びを欠いた。これで短距離に見切りをつけたのか以後の出走はマイル戦のみとなる。Goodwood開催に戻ってきてSussex Sに出走したがまたもPaddingtonの前に3着、さらにG2 Celebration Mileも3着として、好走こそあるものの勝てないまま早めに3歳シーズンを終えた。
4歳の戦績は圧巻で、DoncasterのListed Doncaster Mileを快勝すると、G2 Sandown Mileを勝利して古馬マイル路線への名乗りを上げた。Lockinge Sではうまく立ち回ったAudienceの2着となるが、Charynも3着以下を引き離して評価を上げている。Queen Anne SではAudienceに加えてFacteur ChevalやBig Rockが出走してきたがものともせず完勝し、初めてのG1タイトルを手にするとともに欧州マイルの第一人者となった。
その後フランスに向かうとJacques Le Maroisを勝ってMoulin De Longchampが2着。Jacques Le Maroisは3馬身差であるが圧勝と言っても良い内容であった。Longchampでは逃げたTribalistを捕まえ損ねており、Lockinge SのAudienceと言い、逃げ馬に出し抜けを食らうとちょっとしくじる傾向にある。欧州シーズンの最後はBritish ChampionシリーズのQueen Elizabeth II Sで、持ったまま先頭に立つと競りかけてきたFacteur Chevalを返り討ちにして最後は2馬身差をつけてG1 3勝目を挙げた。
CharynはQueen Elizabeth II Sの前にはシーズン限りでの引退が発表されていたが、その発表と同時にBC Mileかマイルチャンピオンシップに遠征する可能性に触れられていた。レース後にもRoger Varian調教師からあと1戦走ることが示唆され、陣営が以前にBC Mileには消極的なコメントしていたこともあって俄然注目を集めることとなった。
3歳はDavid Eganが主戦で、4歳のレースはこれまで全てSilvestre De Sousaが手綱を取ってきたが、マイルチャンピオンシップでは短期免許で来日中のRyan Mooreが騎乗することになる。
Sire: Dark Angel
父のDark Angelは欧州の短距離路線に強い勢力を築いたAcclamationの初年度産駒にして代表産駒。後継種牡馬としても成功し、父とともに多くのスプリンターを輩出している。
Dark Angelの現役実績は2歳のみで9戦して4勝。いずれも6FのG1 Middle Park SとG2 Mill Reef Sを勝った。当時からすると特筆すべきところがない短距離馬Acclamationの初年度産駒で母系もそこそこ程度となれば、2歳のうちから使えるだけ使う風になったのは理解できなくもない。最後のレースとなったのは7FのG1 Dewhurst Sで、前半を飛ばして先行したが最後はまったく力を失いNew Approachの前に9着という結果に終わった。これによりオーナーサイドは、Dark Angelが6Fに特化した競走馬で3歳以降でG1を勝つ望みがほぼないと判断し、種牡馬としての購入オファーに応じたため、2歳シーズンでの引退と3歳からの種牡馬入りが決定した。この判断は結果的に当たりで、Dark Angelは初年度産駒からスプリントG1を2勝したLethal Forceを出して種牡馬として軌道に乗った。その後もMecca's Angel、Harry Angel、Bataash、Art Powerなどのスプリンターを出す一方、Raging BullやAlthiqaの様にアメリカの芝マイルをこなす産駒も出している。自身は2歳戦しか経験していないが、古馬になっても持つ産駒は多い。今年高松宮記念を勝ったマッドクールは典型的なスプリンタータイプのDark Angel産駒である。また、完全に白くなった芦毛の馬体と相まってDark Angelは厨二病馬名としても一部で著名である。つまりは †Dark Angel† ってこと。
Acclamationは今では香港のRomantic Warriorが代表産駒となるが、中距離で活躍する彼は例外的な存在である。5Fのレースをかっ飛ばす産駒が主で、Expert EyeがBC Mileを勝ったときには8FでG1を勝って驚いたようなレベルであった。Dark Angelはそこまで極端ではなく、マイルをこなす産駒もそれなりに見られ、アメリカの軽い芝で中距離の活躍馬を出している。
Dam: Futoon
母FutoonはKodiac産駒のスプリンターでListedで2着までの実績。Charynの全兄Wings Of WarはG2勝ちである。母系は代々スプリンターで、母父Kodiac、祖母父Mujadilもその前のStatoblestも皆スプリント種牡馬である。これら累代の種牡馬を見て判断できる通り母系のランクは高くない。祖母Vermilliannの全弟GaleotaがGolden Jubileeで2着の2歳G2勝ち馬というのが近親で最高の実績である。