Pocket Powerを忘れない

先週のJ&B Metを最後に南アフリカの走る伝説はその幕を引きました。
1年前、妹River Jetezに敗れてJ&B Metの四連覇を逃し、残るQueen's Plateの五連覇の野望も果て、最後のJ&B Metはかつての輝きの片鱗すら見せる事が出来ないままに8着に終わりました。Big City Lifeに敗れ、Orbisonに敗れ、Bold Silvanoに敗れ、Mother Russiaに敗れ、そしてPast Masterに敗北した1年間でした。
それでもPocket Powerが現役を続けていたことでレースへの話題が増え、注目されたことは事実です。綺麗なキャリアで引退するのも一つですが、最後まで戦って限界を迎えて去るのも一つの姿でしょう。もちろんセン馬であり種牡馬入りという上がりのないPocket Powerだからこそ現役を続けた側面はありますが。
南アフリカの競走馬ということで刻み込んだ実績に比して知名度の低さが残念でなりません。2009年頃にはドバイへの遠征も可能性として出ましたが、それが実現することはありませんでした。全盛期を過ぎ掛けていたとはいえ、ドバイにでも姿を見せればもっと話題になったのだろうななどと。
彼の現役中にJay Peg、Sun Classiqueがドバイで活躍し、多くの現役馬が南アフリカから流出しました。下の世代を引っ張るべき存在だったRussian Sage、Pointing North、Our Giantなどが流出した影響は大きく、Pocket Powerのキャリア後半は強力な牝馬を相手にする展開が多かったです。Dancer's Daughter、River Jetez、Mother Russiaなど。そういえばZirconeumなんてのもいました。
Pocket Powerは2002年産。父Jet Master、母はStormsvleiで生産者はZandvliet Studでした。3歳になってからMike Bass厩舎でデビューし、4戦目で勝ち上がり。Kenilworthの冬開催で4連勝し、そこにはWinter Guineas、Winter Classic、Winter Derbyが含まれています。
G1初勝利は4歳になってのQueen's Plateで、このレースはその後四連覇を達成します。続くJ&B Metも勝って、こちらはその後三連覇。これこそが彼の伝説の中核を成しています。主戦はBernard Fayd'Herbeでしたが、最初のQueen's PlateとJ&B MetはJ. Lloydの手綱によって成されています。
Kenilworthにあっては無敵の強さでしたが、Capeを離れるとやや取りこぼしが目立ち、4歳のDurban JulyではHunting Towerの前に4着に終わっています。この頃のライバルはSuccesful Bidder、Hunting Tower、Buy And Sellがいて同陣営のFloatyourboatもそこに加えて良いでしょう。
Dancer's Daughterとの勝負は5歳のシーズン後半で、既にQueen's PlateとJ&B Metをともに連覇し、Durban Julyにターゲットを定めていた時期になります。Gold ChallengeではDancer's Daughterに敗れるものの、本番のDurban Julyでは劇的な同着による決着を見ます。その翌シーズンDancer's DaughterをKenilworthで下して、J&B Metの三連覇を成し遂げることになります。
既に実績が図抜けていたためハンデキャップ戦であるDurban Julyの斤量設定は厳しくなり、同着の前年からの連覇を狙った2009年には5着に敗れますが、同シーズンには二つの三連覇とChallenge Sでの勝利を以てBig City Lifeを退け、3年連続の年度代表馬に選出されました。この頃までがPocket Powerの全盛期でしょう。
7歳となったシーズンではQueen's Plateの四連覇こそ達成しますが、本命のJ&B MetではRiver Jetez、Mother Russiaの牝馬2頭に敗れる3着。またこの後怪我も判明して少し休養を取りましたが、復帰後はもう以前の強さは戻っていませんでした。
6シーズンの現役生活で通算43戦20勝。Kenilworthに限れば27戦16勝であり、その敗戦もほとんどが調整を兼ねた短距離戦でのもので1600m以上での敗戦は2010年のJ&B Metが初めてで、その後の2011年になってのQueen's PlateとJ&B Metの3戦があるのみです。G1タイトルはQueen's Plateを2007-2010で四連覇、J&B Metを2007-2009で三連覇、2008年のDurban July、2009年のChallenge Sと9勝、Challenge Sで1度とChampions Cupで2度の2着があります。
母Stormsvleiは全妹River JetezもG1を勝ちましたが、Pocket Power出産時で既に15歳に達していたこともあり、Pocket Powerの活躍によって再びJet Masterを相手にする機会を得ることは出来ませんでした。
南アフリカの偉大なる競走馬としてSea Cottageらと同様に語り継がれるのでしょう。そうでなくてはいけないのです。