1920年に第一回の競争が行われ、第二次世界大戦の影響で1939年と1940年に開催中止となっているが、今年は103回目の凱旋門賞である。
過去102回の勝ち馬を調教国で分けると次の通りである。
- フランス調教馬69頭
- イギリス調教馬16頭
- アイルランド調教馬8頭
- イタリア調教馬6頭
- ドイツ調教馬3頭
当然だが基本的にフランス調教馬が優位なレースであり、他には欧州のパート1国から勝ち馬が出ている。
イギリス調教馬による勝利は第一回のComradeに始まり、Mill ReefやDancing Brave、Enableなど名だたる競走馬が名を連ねている。
アイルランド調教馬の初勝利は1958年のBallymossであり、意外に遅く感じるかもしれない。平地競走におけるVincent O'Brienの初期の名馬であり、そのBallydoyleの厩舎を引き継いだAidan O'Brienと併せてCoolmore勢がその過半を占めている。
イタリア調教馬は1988年のTony Binを最後に勝利がなく、近年では凱旋門賞への出走すらできていない。一方でドイツ調教馬は3頭中2頭が今世紀に入ってからであり対照的である。
勝ち馬の傾向を見ると1970年代から80年代にかけては牝馬の時代があり、1979年から1983年は5年続けて牝馬の勝利となっていた。この後、1993年のUrban Seaを最後にしばらく牝馬の勝利はなく、3歳馬が優勢な時代となる。殊にフランス調教の3歳馬が圧倒しており、2006年のRail Linkもその状況に連なる勝ち馬といえる。2008年にZarkavaが久しぶりに牝馬として勝ち馬となると、2010年代は強力な牝馬が参戦して再び牝馬の時代となった。この時代にはTreve、Found、Enableが勝利を収めている。Orfevreが2着に敗れたときのSolemia、Treveはともに牝馬であった。2022年もAlpinistaが勝っている。
また、21世紀に入ってからの凱旋門賞はフランス調教馬の優位が失われているともいえ、フランス調教馬が11勝であるのに対して、イギリス調教馬で7勝、アイルランド調教馬で3勝、ドイツ調教馬で2勝とフランス国外の調教馬による勝利が上回っている。
欧州外からの遠征は近年では日本から遠征してくるかどうかとなっている。日本調教馬は3頭で4回2着に入っている。それ以外では過去の結果を紐解いてもニュージーランドの年度代表馬であるBalmerinoが2着に入っているだけで、欧州外の馬にとっては厳しいレースといえる。
今年は古馬のクラシックディスタンスに確たる存在がなく、3歳馬が中心のレースとなりそうだ。世代では最強と目されるCity Of Troy、Irish Champion Sで実力を見せたEconomicsなどイギリス・アイルランドからの出走馬がやや落ちるという状況にありフランスのクラシック路線を歩んだSosieとLook De Vegaが人気を集めることになった。この2頭に続くDeliusも出走してくる。ここにクールモアのLos Angelesと日本から遠征してきたShin Emperorがいるという状況である。はっきり前哨戦とした前走で好走したShin Emperorも上位人気となっている。
古馬では距離適性も含めて考えるとAl RiffaとBluestockingとなるか。Bluestockingは追加登録までして出走ということで本気度合いがうかがえる。Operaの方に行くものだとばかり思っていたMqse De Sevigneやフランス古馬G1戦のメンツであったHaya Zarkは2400mがちょっと厳しい。
Zarakem: Zarak - Harem Mistress by Mastercraftsman
J.Reynier厩舎。フランスのローカル開催から勝ち上がってきた4歳馬。南部で連勝し、Listedを勝ったところで現在のオーナーに購入されてパリで出走するようになった。前走からはHaras D'Etrehamもオーナーに加わっている。
今年はLongchampのG2 Prix D'Harcourtを勝って中距離G1路線に名乗りを上げた。AscotのPrince Of Wales's SではAuguste Rodinの2着に健闘しているが、Prix Ganayは8着、International Sは11着とちょっとG1では厳しい結果となっている。かつてプロヴァンスやマルセイユ、ヴィシーといったあたりで走っていたときは2400mや2600mも勝ち距離として出てくるが今年は中距離に専念していた。
Haya Zark: Zarak - Haya City by Elusive City
A.Fouassier厩舎。フランスの5歳馬で中距離を中心として重賞に出走してくるというところだったが、去年G3 Prix D'Hedouvilleで2400m戦を勝利し、クラシックディスタンスに転じた。去年の凱旋門賞が重賞初出走だったが、さすがに荷が重く14着に終わっている。今年はSaint-CloudでG3 Prix Exburyを勝つと続いてG1 Prix Ganayを勝ってG1馬に上り詰めた。この時はFeed The FlameやAl Riffaに加えてZarakem、Fantastic Moonといったあたりも下している。その後Prix D'Ispahanは3着とするとしばらくブランクがあり、前走のG3 La Coupe de Maisons-Laffitteで復帰して2着。今年は2000m前後での出走ばかりとなっている。
Fantastic Moon: Sea The Moon - Frangipani by Jukebox July
Mme. S. Steinberg厩舎。去年のドイツダービーを勝った4歳馬。凱旋門賞には去年も出走し11着に終わっている。今年はPrix Ganayに出走して9着に終わるが、ドイツに戻るとG1 Grosser Dallmayr Preissを2着、G1 Grosser Preis Von Badenを勝利。ドイツからの臨戦としては十分だろう。
Al Riffa: Wootton Basset - Love On My Mind by Galileo
Joseph Patrick O'Brien厩舎。Al Riffa Syndicateが所有する4歳馬であり、今年になって松島氏がオーナーに加わった。
9戦3勝。2歳でG1 National Sを勝っているが、3歳では2戦しか出走せずG2 Prix Guillaume D'OrnanoでAce Impactの2着が目立つ程度。今年はG1 Prix Ganayを4着から始まり、アメリカに遠征してG1 Manhattan Sで6着、イギリスに戻るとG1 Eclipse SがCity Of Troyの2着で、前走ではドイツのG1 Grosser Preis Von Berlinを勝った。
この実績でも古馬のトップになるあたり、今年の凱旋門賞は3歳馬の勝負ということだろう。
Sevenna's Knight: Camelot - Sevenna by Galileo
A.Fabre厩舎。3000m戦を得意とする4歳馬で重賞3勝を上げている。反面2400m出は力不足となりG1 Grand Prix De Saint-Cloudは6着に終わっている。ShembalaやDouble Majorに対して優位でPrix Royal Oakで期待すべき。
Continuous: Heart's Cry - Fluff by Galileo
A.P. O'Brien厩舎。去年のSt. Legerを勝った4歳馬。とはいえ長距離に分類されるのはそのSt. Legerだけで、どちらかというと2400mを得意とし、2000mのG3 Royal Whip Sを勝っている。去年はSt. Leger勝ちから凱旋門賞に出走となりレース間隔が詰まった状態だったが5着に入っている。今年はG2 Prix Foyをステップに選んで3着からの出走となる。前走がIresineやZarirの後ろというのはやや不満の残る結果であった。
Bluestocking: Camelot - Emulous by Dansili
R.Beckett厩舎の4歳牝馬。追加登録で出走となる。去年はG1 Irish Oaksで2着やG1 British Champions Fillis And Mareで2着の結果もあるが、今年になると強さを増してG1 Pretty Polly SでEmily Upjohnを下して古馬牝馬のトップに立った。キングジョージで2着の後、G1 International Sは3歳馬に負けて4着となったが、前走G1 Prix Vermeilleを勝った。
勝ったG1は牝馬限定のみだが、キングジョージやInternational Sのレースから牡馬相手でも問題なさそうで、古馬では実績上位だろう。International Sで先着を許した3歳勢は出走してこないため、チャンスは大きい。
Mqse De Sevigne: Siyouni - Penne by Sevres Rose
A.Fabre厩舎。Rothschild男爵所有の5歳牝馬。
今年は4戦全勝で牡馬相手のG1 Prix Ganayも勝っていて、フランスの古馬ではトップだが、ここ2戦は牝馬限定のG1 Prix RothschildとPrix Jean Romanetである。Prix De L'Operaにも登録していて、これまでのレース選択や距離を考えるとあちらを選択するのだろうと思っていたら凱旋門賞に出てくるので驚いた。
生産者名義はEcurie De MeautryだがRothschildがオーナーなので、Edouard Rothschildのオーナーブリードといえるだろう。牝系はBoussacの13-c族Apolloniaからで、Guy De Rothschildの手に渡ったもの。半兄にMeandreがいる。
父はSiyouni。特に3歳のマイルから中距離に強みがある種牡馬で、Mqse De Sevigneのように4歳以降に大成するのは珍しいパターンである。
母父Sevres RoseはCaerleon産駒でRothschildのオーナーブリード。未出走のままフランスで種牡馬になったものの成功しなかった。PenneはListedで2着までだが、これでも上位の結果である。Sevres Roseの産駒で重賞を勝ったViane Roseは繁殖牝馬として日本に輸入されている。
Look De Vega: Lope De Vega - Lucelle by High Chaparral
C.&Y. Lerner厩舎。Rohan Thomas騎乗。Al Shaqabにオーナーが変わったフランスの3歳馬。
4戦3勝で、今年のPrix Du Jockey Clubをデビューから3連勝で勝った時点では凱旋門賞でも最有力とみなされていた。9月になって前走戦はPrix Nielを選択したが、これが案外な結果で、同じフランスの3歳馬であるSosieに仏ダービーからの逆転を許す3着に終わった。これにより前売り人気も一時Sosieと入れ替わった。最終的にはSosieとほぼ並んで一番人気といったライン。
キャリア4戦は去年のAce Impactよりも少ないが、Prix Nielを踏んでくるという点はフランス調教の3歳馬として妥当すぎる臨戦過程である。
父Lope De Vegaの産駒にはマイルから中距離の活躍馬が目立ち、2400mというのはやや長いのかもしれない。
Shin Emperor: Siyouni - Starlet's Sister by Galileo
Yoshito Yahagi厩舎、Ryusei Sakai騎乗。Susumu Fujita所有の3歳馬。
外国産馬として日本で出走しており、7戦2勝。2歳ではG3 京都2歳Sに勝ってG1 ホープフルSが2着だった。3歳はG2 弥生賞を2着で始動し、G1 皐月賞5着、G1 日本ダービーで3着。秋は遠征に出て前走がG1 Irish Champion Sで3着とはいえ、まだ伸びる余力を残したようにも見える形で前哨戦をクリアした。陣営は凱旋門賞を最大の目標としていて、前走ではまだ仕上がり途上であることを否定せず、それでいて3着とは言え同じ3歳で凱旋門賞を目指すLos Angelesに先着したことで評価を高めた。
母Starlet's Sisterで凱旋門賞馬Sottsassの全弟にあたる。他に半姉としてSistercharlieやMy Sister Natが出ている母は優秀な繁殖牝馬である。父Siyouniはフランスを中心に活躍馬を送る種牡馬で母父Galileoとの組み合わせが最多で最優となっている。SottsassのみならずSt. Mark's Basilica、Al Hakeem、Mise En Scene、Nugget、MaqsadがLiseted以上の勝ち馬である。
Siyouni産駒の活躍は3歳がピークなので、3歳のうちに凱旋門賞馬の全弟を遠征させて出走させるという決断をした陣営を高く評価する。4歳以降で大成したMqse De Sevigneなんて例外的な存在だろう。
Sunway: Galiway - Kensea by Kendargent
D.Menuisier厩舎。2歳のG1 Criterium Internationalの勝ち馬。今年はG1 Prix Du Jockey Clubでは7着に終わったものの、G1 Irish Derbyでは2着と健闘した。その後キングジョージで4着を挟んでSt. Legerに出走して3着。
全兄のSealiwayは中距離で活躍したが、Sunwayはスタミナがあるタイプと評価されており、距離をこなすほうになってきている。この兄弟をはじめとするGaliwayとKendargentの周辺事情はキングジョージに出走したときの紹介に書いているのでそちらも参照してほしい。
Delius: Frankel - Whatami by Daylami
J-C. Rouget厩舎。フランスのCoolmoreの3歳馬。
5戦3勝。3歳の4月になってデビューすると3連勝してG3 Prix Du Lysを勝った。そこから出走したGrand Prix De Parisは3着で前走はG2 Prix Nielで2着。フランスの3歳馬上位の一角だが、この2戦はいずれもSosieに負けていて、逆転の目があるかというと厳しい。
近親に活躍馬が多数出ているEljazziのファミリーで従姉にUniがいる。
Sosie: Sea The Stars - Sosia by Shamardal
A.Fabre厩舎、M Guyon騎乗。Wertheimer兄弟が所有する3歳馬。
6戦4勝。Chantillyのデビュー戦を勝ち上がり、Listed戦を2着として2歳を終えた。3歳の今年はLongchampでの始動戦を勝った後フランスのクラシックに向かい、Prix Du Jockey ClubがLook De Vegaの3着。その後はGrand Prix De Parisを勝って前半戦を終え、凱旋門賞には前哨戦のPrix Nielを勝ってきた。かつては最重要の前哨戦だったPrix Nielも近年はあまり本番につながっていないが、Longchampの2400m戦で2勝しているという事実は大きく、また前哨戦で他の有力馬が振るわなかったこともあって大きく評価を上げている。
母系はドイツに由来する28号族で、かつてはBのイニシャルだったが一度ドイツから離れている。KarlshofがSacarinaをドイツに戻してからはSのイニシャルを引き継いでおり、そのSacarinaからSchiaparelli、Samum、Salve Reginaが出ており、そのきょうだいにあたるのがSosieの祖母Sahelである。SahelはWertheimer兄弟がオーナーとなりフランスで競争生活を送った。繁殖入りするとイタリアでG1 Premio Lydia Tesioを勝ったSortilegeを出している。母Sosiaも産国はドイツとなっているが、Wertheimerの所有馬としてフランスで現役生活を送った。その産駒にはListed勝ちまでは出ていたが、重賞馬まで出世したのはSosieが初めてである。
Los Angeles: Camelot - Frequential by Dansili
A.P. O'Brien厩舎。Ryan Moore騎乗。Coolmoreの3歳馬。
7戦5勝。2歳でG1 Criterium De Saint-Cloudを勝ったものの同陣営にはCity Of Troyがいた影響もあり評価はそれほど高くはなかった。それでもEpsomのDerbyを3着でまとめた後、Irish Derbyを勝って3歳でもG1タイトルを取り、YorkのG2 Great Voltigeur Sも勝った。父Camelotということもあってやや長めの距離が向いているという判断が2歳の頃からあるようで、レース選択にもそれが現れている。今年は当初DoncasterのSt. Legerが最有力と考えられていたが、陣営で凱旋門賞の一番手に浮上したことからIrish Champion Sに向かった。10Fのレースはやや距離が足りないようにも思われ4着となったが、十分な結果だろう。不満があるとしたらShin Emperorに先着されたことくらいか。
Allegrettaの牝系にKingmamboとDanehillのクロスを乗せてくるCamelot産駒。ステイヤー化しがちなMontjeuラインにあってCamelotでスピード勝負に耐える構成をしっかり押さえている。CamelotにとってAllegretta牝系は極めて重要で、G1を勝ったAthenaやSir Dragonetの他にHector De Maris、Sir Lucan、Goddess、Be Happyが出ており、いずれもDanzigとMr. Prospectorのクロスを持つという特徴がある。
Survie: Churchill - Sotteville by Le Havre
N.Clement厩舎。今年のG1 Prix De Dianeの2着馬で、Longchampでは2400mのG2 Prix Malleretを勝っている。前走はPrix Vermeilleで7着。
Aventure: Sea The Stars - Balladeuse by Singspiel
C.Ferland厩舎。Wertheimer兄弟が所有する3歳牝馬。
7戦3勝で、G3 Prix Du RoyaumontとG2 Prix De Pomoneを勝っている。前走はG1 Prix Vermeilleで2着。Prix De Dianeは4着だった。距離は2400mがベストだが、これまで全て牝馬限定戦への出走である。