Gun Runner素晴らしいですねということですが、Gun Runner自身もさることながら、Three Chimneys FarmとWinchell Thoroughbredsが絶対に成功させるという意図をもって全力で支えた結果でしょうね。
関係があるかないかわからない話をだらだらと書いておきます。
2021 1st-Crop Leading Sire
まずはGun Runnerの種付け料、種付け頭数の変遷をメモ。
Breeding Year | Fee | Mares Bred | Live Foals |
2018 | 75,000 | 171 | 130 |
2019 | 75,000 | 166 | 120 |
2020 | 75,000 | 156 | 120 |
2021 | 50,000 | 168 | N/A |
2022 | 125,000 | N/A | N/A |
種付け頭数は安定しており、75%前後の産駒出生率は平均的な数字でしょう。2021年は初年度産駒のデビュー前ということで種付け料が減額されていますが、このタイミングは基本的に下がります。去年の初年度産駒の大活躍を受けて、種付け料は一気に2.5倍となり、易々と10万ドルを超える水準になりました。
2021年に初年度産駒がデビューしたGun Runnerは北米の種牡馬として初めて2歳馬の獲得賞金が400万ドルを超えました。これまでの記録は2015年にUncle Moが初年度産駒で記録した370万ドルでしたが、Gun Runnerの2021年は430万ドルです。
無論、2歳戦に振り分けられる賞金額の変化なども理由となるのでしょうが、Thoroughbred Daily Newsの集計では2番手のInto Mischiefに100万ドルを超える差をつけており、突出性も高いことが見て取れます。尤もこの評価軸でもUncle Moの場合はより強力なScat Daddyがいたことは考慮されなければなりませんが、活躍馬の比較でも上位であると考えてよさそうです。
Gun Runnerは初年度産駒として115頭が登録され、63頭がデビューしました。31頭が勝ち上がり、42勝を挙げています。活躍馬の筆頭はもちろん4戦全勝の女王Echo Zuluで、GuniteもG1を勝っているほかPappacapがBC Juvenileで2着に入っています。
Uncle Moの初年度は150頭が登録され、2歳のうちにデビューしたのは73頭です。そこから28頭が38勝を挙げ、G1馬はNyquistとGomoの2頭で4勝です。無傷の2歳王者となったNyquistの存在が大きいです。
Uncle Moについてはこちらも参考に。
Uncle Moは産駒デビューまでの振れ幅が大きくて、その結果産駒成績も少し安定していません。Ashfordならそんなもんかな。
Uncle Mo以前に新種牡馬での獲得賞金記録を持っていたのは2008年のTapitで、この時はBC Juvenile Filliesを勝ったStardom BoundとBC Juvenile Fillies Turfで3着とHollywood Starlet勝ちの実績を持つLaraghが大きく寄与しています。2歳戦の賞金体系を考えるとBCで勝つのはほぼ必須といえますね。
TapitにしろUncle Moにしろその後の産駒の活躍はご存じの通りといったところで、Gun Runnerもこのまま北米のトップ種牡馬の一角として期待できそうです。
Early Nomination for Triple Crown
Gun Runner産駒は3歳になっても好調を維持しており、1月29日に締め切られたアメリカ三冠戦のアーリーノミネーションには16頭が登録され、全種牡馬中のトップとなっています。その16頭を順にピックアップしましょう。
- American Icon: out of Sky America by Sky Mesa 2戦1勝
- Concept: out of Majestic Jewel by Cindago 6戦1勝
- Costa Terra: out of Teardrop by Tapit 4戦1勝
- Cyberknife: out of Awesome Flower by Flower Alley 4戦1勝
- Early Voting: out of Amour D'Ete by Tiznow 2戦2勝 G3 Withers S
- Echo Zulu: out of Letgomyecho by Menifee 4戦4勝 牝馬 G1 Breeders' Cup Jevenile Fillies、G1 Frizette S、G1 Spinaway S
- Efficiency: out of Sunday Sonnet by Any Given Saturday 未出走 騙馬
- Flying Drummer: out of Salamera by Successful Appeal 4戦1勝
- Giant's Fire: out of Esprit De Vie by Street Cry 2戦未勝利
- Guntown: out of Fun House by Prized 5戦1勝
- McLaren Vale: out of Magical Weekend by Any Given Saturday 2戦1勝
- Pappacap: out of Pappascat by Scat Daddy 6戦2勝 G2 Best Pal S
- Red Run: out of Red House by Tapit 6戦2勝 Texas Turf Mile S
- Ridley's Major: out of Grand Sofia by Giant's Causeway 2戦未勝利
- Taiba: out of Needmore Flattery by Flatter 未出走
- Ten Gauge: out of Scenic Drive by Empire Maker 7戦未勝利
以上の16頭で、全体を見てもEcho Zuluが出てきたら勝てるんじゃないかなと思います。
で、Guniteは登録に名前がありませんので、しばらく出てこれない状態なのかな。
Gun RunnerはThree Chimneys FarmとWinchell Thoroughbredsの共同名義で登録されていました。どちらも北米競馬における名門です。
Three Chimneys Farm
Three Chimneys Farmは1972年にRobertとBlytheのClay夫妻によって創設されました。北米を代表する総合的なサラブレッド牧場の一つであり、40年にわたってClay家による経営が続きました。その歴史の中で牧場は大きく成長し、100人を超える従業員を抱えるまでになりましたが、Clay家は家族経営の気風を守り続けました。2013年にブラジルでStud TNTを経営するBorges-Torrealba家により買収されると、新たな経営陣はより一層の拡大を目指して、牧場の方針を転換し、組織の改編を行いました。
Robert N. Clayはケンタッキー州のレキシントン郊外のMount Sterlingでタバコ事業を営む一家に生まれており、ハワイでの兵役を終えると一家の所有する肥料会社に就職しています。
生まれ育った土地ゆえかサラブレッド産業への興味を持っていた彼は、ヴァージニアの名門William & Mary大学でビジネス経済学の論文を書いたものの、大学卒業後に近くのSpendthrift Farmで夜警の補佐をしていたことがありました。また、彼の父も数頭のサラブレッドを購入し、生産を行っています。
1972年にClayはLexington市郊外のWoodford郡に小さな牧場を開きます。牧場の小屋にあった3本の煙突にちなんで名付けられたこの100エーカーの牧場に9頭の繁殖牝馬からThree Chimneys Farmは始まりました。1978年には繁殖牝馬が20頭に増え、1984年からは種牡馬の繋養も始まっています。
このころRobert N. Clayは家業であった肥料会社Top Yield Industriesの経営者としてHarvard Buisiness Schoolの経営者向けプログラムに参加しています。このプログラムで出会った教授を会社の取締役会に招聘しましたが、彼から肥料事業に携わる理由を3つ問われた時に、Clayは1つすら答えることができませんでした。そうして1984年にこの肥料会社をCargillに売却し、サラブレッド事業に注力することになります。それはちょうどThree Chimneys Farmで種牡馬事業を開始するのと同じ年でした。
Clayの下でThree Chimneys Farmの種牡馬戦略は多数の種牡馬を並べるのではなく、1頭1頭へのアプローチを重視するものでした。この方針はSeattle SlewのオーナーであるTaylor夫妻の目に留まり、1986年からその種牡馬キャリアの最後までSeattle SlewはThree Chimneys Farmを居とすることになりました。
Clayは種牡馬の種付け頭数を制限し、種付け申し込みのあった牝馬の中から質の高い牝馬を選んでいました。21世紀に入ってシーズンの種付け頭数が200頭を超えるケースが出るようになってからもThree Chimneys Farmでは110頭程度の制限がありました。Rahy、Dynaformer、Point Given、Silver Charm、Exchange Rateといった名だたる種牡馬を擁していましたが、Exchange Rateの120頭が最大の種付け頭数でした。
現役を引退し、種牡馬としての前途が洋々と拓けていたSmarty Jonesを引き受けることになった時にもシーズンで110頭までの種付けに制限する方針を示していました。Smarty Jonesは60株で総額3900万ドルのシンジケートが組まれましたが、その半分をオーナーが持ち、Three Chimneys Farmは10株を購入していました。
一方でこうした方針に対して、種付け頭数を増やしていく圧力があることも認め、また方針を維持するつもりだが、資金面の問題から目を背けることはできないとも語っていました。
Three Chimneys FarmはClay夫妻とその子供たちによって経営が続けられてきましたが、2013年11月にBorges-Torrealba家に経営権が移りました。Borges-Torrealba家はブラジル最大手のStud TNTの経営者で、Clay家とは長年協力関係にあり、2012年にはパートナーシップを締結していました。また、Borges-Torrealbaは2013年初めにSatish SananのPadua Stablesを買収していますが、この時Borges-Torrealbaからのオファーを仲介したのはRobert N. Clayでした。
Three Chimneys FarmはBorges-Torrealbaによって専門性の高い組織に再編され、規模を拡大しています。
種牡馬の構成も変化し、Wll Take ChargeやPalace Maliceを現役のうちに購入し、Gun RunnerをWinchell Thoroughbredsとの共同所有馬としてデビューさせました。彼らはいずれも引退後にThree Chimneys Farmで種牡馬入りしています。種付け頭数も以前より多くなり、Palace Maliceはシーズンで200頭を超える種付けを行っています。
Winchell Thoroughbreds
Gun Runnerを共同所有したWinchell ThoroughbredsはMira FemmeやTight Spot、Olympioなどを有したVerne Winchellの死後にその妻Joanと息子Ronによって引き継がれた名義です。Tapitのオーナーであったことから近年の活躍馬にはTapit産駒が多く、Tapizar、Tapiture、Untapableを自家生産馬として送り出しています。
Gun Runner産駒も多く所有し、2歳G1の勝ち馬Guniteが自家生産馬であり、2歳女王のEcho Zuluはイヤリングセールで落札して共同所有となっており、Gun Runnerのリーディング獲得にはWinchell Thoroughbredsの関与が大きいと言えます。また、Winchell ThoroughbredsはTapitが入った優秀な牝馬を抱えており、それらが種牡馬Gun Runnerを支える構図となっています。
特に現在のWinchell Thoroughbredsで基幹牝系となっているCarol's Christmasの牝系はTapitと好相性で多くの牝馬を得ています。Winchell Thoroughbreds名義での生産馬に絞った牝系図が下記です。
Carol's Christmas 1977(Whitesburg)>Olympio 1988(Naskra) |Dana Nicole 1983(Flying Paster) |Carol's Wonder 1984(Pass The Tab)>Wild Wonder 1994(Wild Again) ||Make Your Call 1992(Miswaki) ||Lost Art 1995(Lyphard) ||Another Wonder 1996(Wild Again) ||Carol's Star 1997(Star Of The Crop) ||Wild Vision 1998(Wild Again)>Pyro 2005(Pulpit) |||Tat American 2004(Quiet American) |||War Echo 2006(Tapit)>Munitions 2016(War Front) ||||Echo Warrior 2012(Tiznow) ||||Strike First 2015(Smart Strike) |||Teardrop 2011(Tapit)>Pneumatic 2017(Uncle Mo) ||||Drop Off 2018(Candy Ride) |Bistra 1986(Classic Go Go)>Early Flyer 1998(Gilded Time) ||Dixie Queen 1994(Dixieland Band) ||Fun House 1999(Prized)>Paddy O'Prado 2007(El Prado) |||Wild Chant 2006(War Chant) |||Patti Orahy 2008(Rahy) |||Double Tapped 2010(Tapit) |||Untapable 2011(Tapit) |||Time To Tap 2012(Tapit) ||||Blackflash 2016(Medaglia D'Oro) ||||Margaux Mania 2017(Uncle Mo) |||Untapped 2014(Tapit) ||||Tapsion 2019(Gun Runner) |||Red House 2015(Tapit) ||Alize 2001(Lord Carson) |Call Now 1992(Wild Again) ||Winning Call 1998(Deputy Minister)>Tapizar 2008(Tapit) |||Cherokee Rising 2003(Cherokee Run) |||Graceful Charm 2005(Silver Charm) |||Tamboz 2006(Tapit) ||Call Da Law 2002(Silver Deputy) ||Twisted Vale 2005(Tale Of The Cat) ||Tapatia 2008(Tapit) |||Adhara 2013(Cowboy Cal) |||Rum Punch 2014(Street Hero) |||Tapalita 2015(Eskendereya) |||Charge Through 2018(Will Take Charge) |Christmas Star 1994(Star De Naskra)>Cuvee 2001(Carson City), Will He Shine 2002(Silver Deputy) ||Christmas Party 1999(Wild Again) ||Snatched 2004(Cat Thief) ||Catera 2005(Gone West) |||Seaport 2011(Tapit) ||||Phthalo 2016(Brethren) |||Cleartap 2012(Tapit) |||Areolite 2013(tapit) ||Chiloe 2007(Awesome Again) |||Rapzodia 2017(Tapiture) ||Tapalite 2012(Tapit) |||Declarative 2018(Declaration Of War) |||Echolite 2019(Gun Runner) |Your Call 1996(Wild Again) ||Callheracitygirl 2001(Carson City) ||Call W J 2005(Chief Seattle)
アメリカ三冠の早期登録ではWinchell Thoroughbredsの単独名義で4頭が登録されていますが、その3頭はGun Runner産駒の自家生産馬です。すなわちCosta Terra(母Teardrop)、Guntown(母Fun House)、Red Run(母Red House)の3頭で、全てがCarol's Christmasのファミリーであり、Costa TerraとRed Runが母父にTapitを持ち、GuntownがUntapableの半弟、Red RunはUntapableの甥にあたります。