2021 Breeders' Cup Distaff contenders and two other champions

今年のBreeders’ Cup Distaffとそこに向かう北米牝馬路線は語られるべきと思いましたので、拙文を残しておくことにします。概ねBC Distaffの事前評価の順にして、最後に2020年の古馬と3歳のチャンピオンであったMonomoy GirlとSwiss Skydiverについても触れます。

このBC Distaffの出走馬やその結果については様々な側面から語ることができるでしょうが、まあその一部といったところです。

Letruska

父Super Saver、母Magic Appealの5歳馬。

3歳になってメキシコのHipodromo De Las Americasでデビューすると6連勝。メキシコの三冠路線は初戦に外国産馬の出走を認めていないため、牝馬三冠にこそ挑戦できなかったが、残る2戦のG1 Clasico Esmeralda、G1 Clasico Diamanteを圧勝して牝馬二冠を達成した。これを最後にアメリカに移り、Gulfstream Parkのブラックタイプに出走したのがその年の12月である。4歳シーズンの前半はアローワンスやブラックタイプ戦に出走していたが、SaratogaのBallerina SでG1に挑戦した。ここから重賞戦線に乗り込み、4歳のうちではG3 Shuvee SとG3 Rampart Sの重賞2勝を記録している。5歳となった今年はG3 Houston Ladies Classicを勝ち、OaklawnのApple Blossom Hで久しぶりにG1に挑んできていた。

このレースには当時牝馬路線の最強馬であったMonomoy Girl、4歳の初戦をクリアしてきたSwiss Skydiverが出走してきて2強対決の様相を見せた。レースがスタートするとLetruskaが先行策でリードし、Swiss Skydiver、Monomoy Girlが続いた。直線ではLetruskaがMonomoy Girlとのたたき合いを制してG1初勝利を遂げる。この時はLetruskaの斤量が6ポンド軽いということもあり、Monomoy Girlの評価は落ちることなく、新たなトップタレントが登場したように受け取られた。

続くG1 Ogden Phipps SではShedaresthedevilの挑戦を受ける立場となり、序盤からの競り合いを制すると直線で大きく抜け出して勝利。G2 Fleur De Lis Sも勝った後に短い休養を取った。

シーズン後半は早くもG1 Personal Ensign Sで復帰すると再びSwiss Skydiverを下して一強時代の到来を告げることになる。なお、このレースにはRoyal FlagやDunbar Roadも出走しており、BCに向けて路線が収束しはじめていた。BCへのプレップとなったG1 Spinster Sでは再びDunbar Roadの挑戦を受けるが余裕をもって勝利し、不動の本命となる立場でBC Distaffに出走してきた。

本戦ではLetruskaを含めて有力馬が先行タイプであり、Distaffまでのレースでも逃げ切りが有利という結果が出ていたため、先行争いがカギを握ると見られていた。Shedaresthedevilがスタート直後に強硬に先手を取りに行って譲らない姿勢を見せたことでペースが上がり、隊列が決まるとPrivate Missionの2番手で進む形になったものの、最初の2FがSprintより早いペースとなってはさしものLetuskaも持たなかった。それでも自ら仕掛けて一時でも先頭に立とうとしたのはその矜持のなせる業だったか。しかし、余力がなかった直線では全く追われることなく流しており10着という結果に終わる。キャリア23戦目にして初めて味わう大敗であったとともに、BC全体のレース結果次第であったが狙えた年度代表馬の可能性を失った。

レース後に陣営はKeenelandで開催される来年のBCに戻ってくることを宣言した。チャンピオンとしての立場となる2022年はレースを絞って5,6戦してDistaffでの戴冠を狙う。

父Super Saverは2010年のKentucky Derby馬であり、種牡馬入りしてからも初年度からCompetitive EdgeやRunhappyを出した。しかし次第に産駒成績が先細りとなって、トルコジョッキークラブにより購入され、2020年からトルコで種付けを行っている。なお、この時ともにWinStar Farmからトルコに送られたのがDaredevilである。

Shedaresthedevil

Daredevilの初年度産駒にして3歳ではG1 Kentucky Oaksを勝って、Swiss Skydiverとともに父をトルコから北米に連れ戻すきっかけとなる活躍を見せた。その去年はG1 Spinster Sで3着に終わったためBCに出走することなく休養入りしていた。結果、3歳女王の栄冠はPreakness Sを勝ったSwiss Skydiverに輝いていた。

明けて古馬となった今年はOaklawnのG2 Azeri Sで復帰戦を飾ると、Churchill DownsのG1 La Troienne Sも勝って順調な仕上がりを示していた。続くG1 Ogden Phipps Sでは3着だったが、その後G1 Clement L. Hirsch S、G3 Locust Grove Sを連勝してBC Distaffに挑んできた。

Letruskaとの勝負ではAzeri Sでは勝ち、Ogden Phipps Sでは負けており、どちらか先手を取った方が勝つというところである。したがって、本戦でもこの2頭の先手争いが大きなポイントであった。スタート直後は積極的にハナを奪いにいく意図を見せたが、結局引いてAs Time Goes Byと並ぶような3番手に落ち着いた。3コーナーで捲りに行くものの、すぐに後方勢の勢いに飲み込まれ抵抗する力はなかった。内埒を頼りにコーナーをクリアして直線に向くが、前から大きく離された6着がやっとであった。

BC直後のFasig-Tiptonで上場され、Whisper Hill Farmにより500万ドルで落札されているが、繁殖入りではなくQatar RacingとFlurry Racing Stablesを加えたパートナーシップの下で2022年も現役にとどまることとなった。

Malathaat

Curlin産駒の3歳馬で母はG1馬Dreaming Of Juliaである。2歳では3戦3勝で順調にステップアップすると、今年はG1 Ashland Sを叩いてそのまま5連勝でG1 Kentucky Oaksを勝った。続いて出走したG1 CCA OaksはMaracujaに差されて2着となるも、G1 Alabama Sを勝って3歳トップとしてBC Distaffに出走してきた。

基本的には差し馬であるが、4頭立てとなったCCA Oaksではレースを先導する形になってしまい最後に差される結果となっている。

道中の前半はMarche LorraineやRoyal Flagの前という絶好の位置にいたが、このレースの仕掛けどころとなった3,4コーナーで後退してくる先行勢の外に出さなければならず、やや割を食っている。直線では内にいて位置取りを争ってDunbar Roadと接触、そのまま馬体を合わせながら伸びたが、最後にわずかに遅れて3着となった。

Royal Flag

父はCandy Ride、母はMineshaft産駒のSea Gullで兄にCatalina Cruiser(父Union Rags)やEagle(父Candy Ride)が出ている。ここまで出てくる種牡馬で明らかなようにLane's EndのFarishによるオーナーブリードである。

デビューは遅く3歳の9月で、4歳になった去年から重賞に出走するようになり、G3 Turnback The Alarm Hを勝ち、今年はG3 Shuvee S、G2 Beldame Sと2勝していた。Catalina CruiserやEagleの戦績からもわかるようにG2までは勝てるが、基本的には善戦屋といったきょうだいである。

後方待機がはまり、Marche Lorraineの仕掛けにも反応してさらに外から並ぶように進出して直線に入るが、そこからの伸びを欠いて5着に終わる。コーナーの最後でやや外に膨らんで大回りになったのが影響したのかもしれない。

Dunbar Road

Quality Road産駒の5歳馬である。3歳でデビューし、G1 Alabama Sを勝ったが、その後は大きく崩れないものの勝ちが遠いといった戦績である。BC Distaffには3歳の2019年から続けて3回目の出走で、5着、3着、2着と順位を上げるもついに勝てなかった。

追い込みを武器とするが勝ち切るほどの鋭さがあるわけではなく、今年はG1 La Troienne S(勝ち馬Shedaresthedevil)、G3 Shuvee S(同Royal Flag)、G1 Personal Ensign S(同Letruska)、G1 Spinster S(同Letruska)と牝馬路線の上位で健闘はしていた。

レースでは後方集団を引っ張る位置にいたが、仕掛けが遅れた。直線でうまく内に切り込みながら伸び、最後は完歩が同期したまま写真判定となり、ハナ差2着。直線でMalathaatと接触しており、これがなければどうだったかというところ。

Clairiere

こちらもCurlin産駒の3歳馬。母CavortingはG1を3勝した活躍馬である。

今年、G2 Fair Grounds Oaksの2着から挑んだG1 Kentucky Oaksでは4着であった。その後はニューヨークの牝馬三冠に出走したが勝ちきれず、ペンシルヴァニアのCotillion SでG1勝ちを果たしてBC Distaffに出走した。

先行争いからのハイペースに付き合わず1頭離れた最後方からレースを進め、展開利を活かして大外に持ち出して追い込んでくるが、ロングスパートを最後までは維持できず、じりじり進出する程度になって4着。

Private Mission

3歳馬で父はInto Mischief。母系はアルゼンチンのMiss Evaに由来しており、Dunbar Roadは年上の姪にあたる。

今年は6月のアローワンスから始動するとG3 Torrey Pines S、G2 Zenyatta Sと3連勝してBC Distaffに出走してきた。先行して勝負する馬であり、LetruskaとShedaresthedevilの先行争いに絡んでレースをリードすることになったが、2Fが21.84、4Fが44.97という通過タイムを刻むことになってしまい、諸共に沈んでいく結果となった。直線入口ですでに最下位に後退しており、そのまま流してゴールした。

少し間を取って、年内最後のG1開催となるSanta AnitaのLa Brea Sに出走し、圧倒的な人気を集めた。しかし、7F戦のペースに適応できなかったのか先手を取れず、序盤でMissy P.と接触する不利にも見舞われることになった。コーナーで捲りに行って意地を見せるも力尽き6着に終わっている。

As Time Goes By

American Pharoahの初年度産駒となる4歳馬で、母は名牝Take Charge Lady。

デビューが遅く、勝ち上がりに3戦を要して、3歳の12月に初勝利を挙げた。今年になって続けてアローワンスを勝つと一気にG1挑戦したBeholder Mile Sで2着と結果を出した。さらにSanta AnitaでG2のSanta Margarita S、Santa Maria Sを連勝すると、再びG1に挑戦したDel MarのClement L. Hirsch SではShedaresthedevilと拮抗する評価を受けるほどになる。しかしまったく手ごたえがなく下位に沈み、さらに東海岸に遠征したPersonal Ensign SでもLetruskaらに太刀打ちできず6着とさっぱりだった。Santa Anitaに戻ったG2 Zenyatta Sでは2着だったが、ここではPrivate Missionをとらえ切れなかった。

勝ちパターンは早め抜け出しだが、G1などで相手が強いと道中で付いていけずダメなのである意味分かりやすい。先日出走したG3 Bayakoya Sではこの程度では相手にならないとばかりにレースを引っ張り、直線で並びかけてきたWarren's Showtimeを突き放して快勝している。とても分かりやすい。

BC Distaffでは3頭の先行争いを見る位置で、結果的にShedaresthedevilと3番手を分け合う形でレースを進めたが、無抵抗で殺到する後方勢に飲み込まれていった。直線に入ってもある程度追われていたが最後にBlue Stripeに交わされて8着となった。

Marche Lorraine

5歳馬。父オルフェーヴル、母ヴィートマルシェ、その父フレンチデピュティ

3歳になってからデビューするも勝ち上がりに5戦を要する。デビュー以降ずっと芝を使われて重賞にも出走したが、平凡な成績に終わっていた。夏の小倉開催でダートに転じてこれを勝つと、即座に大井のG2 レディスプレリュードも勝って賞金を積むことに成功する。続いてG1 JBCレディスクラシックは大外を回して追い込むが届かず3着に終わるが、G3 TCK女王盃、G2 エンプレス杯と連勝した。G3 平安Sではダート転向後初の牡馬相手のレースで3着となり、G1 帝王賞に挑んだが8着に終わっている。その後門別のG3 ブリーダーズゴールドカップを勝ってBC Distaffに挑戦することとなった。

外枠スタートだったが、前が速かったためスムーズに位置を確保してレースを進めることができた。道中は後方集団の真ん中といったところだったが、3コーナー付近で前との差が詰まると果敢に動き、以後のレースをリードした。直線に向いたところで先頭に立つと、脚色は衰えず押し切った。

モーニングラインではBlue Stripe、Horologistとともに最低人気であったが、直前オッズではわずかに彼女らを上回る評価だった。

彼女の持ちタイトルではG2 レディスプレリュードのみが国際的に認められたブラックタイプレースである。しかしながらその他の国内重賞もレースレベルとしては遜色ないものという認識は共有されており、オッズが高かったのは単に日本のダート牝馬という実績がなく得体の知れない存在であったからであろう。率直に言ってBlue Stripeと同じくらいの評価なら十分に評価されていたということもできる。

Blue Stripe

アルゼンチン産の4歳馬。父はEqual Stripeである。半姉にアルゼンチンから北米に移籍して長く活躍し、2019年のBC Distaffを勝ったBlue Prizeがいる。

アルゼンチンでのデビュー戦は3歳になってPalermoで勝ち上がる。この時の2着は僚馬Ver Caballoであるが、彼女はその直後にLa PlataのG1 Seleccion De Potrancasを勝っている。同じ時期にBlue StripeはSan Isidroに赴きG1 Enrique Acebal、G1 Copa De Plataを3着している。2021年になるとPalermoのリステッドを勝ち、G2 Arturo R. Y Arturo Bullrich、G1 Criadoresと3連勝して3歳シーズンを終えた。GP CriadoresはBC Challengeに位置づけられ、勝ち馬にはDistaffへの優先権を与えるレースの一つである。半姉も勝っている実績があったためか、レース直後から陣営はBC Distaffへの出走に言及していた。

先行勢と後方勢の中間あたりでレースを進めて早めに動き出したが、手応えがなく先行勢とともに飲み込まれてしまった。最後の最後でAs Time Goes Byを交わして7着。北米で一叩きができず、移籍休み明けでの出走となったのは厳しかったように思われる。

Horologist

父Gemologist、母Cinderella Time、その父Stephen Got Evenというニュージャージー産6歳馬。

3歳ではそのニュージャージーのG3 Monmouth Oaksを勝ち、NJ州産の最優秀3歳牝馬に選ばれた。その後のビッグタイトルとしてはG2のBeldame S勝ちくらいである。BC Distaffには去年に続いての出走となったが、今年は去年よりも戦績を落としており最低人気であった。ハイペースの先行集団を追いかけて早々に後退し、逃げつぶれた2頭を交わしただけに終わっている。

BC Distaff後、Keeneland November Saleに上場され、ノーザンファームにより80万ドルで落札された。

Monomoy Girl

昨年のBC Distaff勝ち馬にして最優秀古馬牝馬。そのBC直後のFasig-Tipton November Saleに上場されて、議論の的となった。当時Broodmare Prospectとしての上場であったが、950万ドルで落札したSpendthrift Farmの元で6歳となる今年も現役を続行する。しかし、今年は順調とは言えず、初戦のG3 Bayakoya Sを快勝したものの、続くG1 Apple Blossom HでLetruskaとの競り合いに負けて2着に終わったあとレースに出走することなく、BCを前に骨折が原因となって引退が発表されていた。

3歳でKentucky OaksやBC Distaffを含めG1を5勝するも4歳シーズンは全休。5歳だった去年もレースを絞っており、今年も順調に使えず骨折で引退に追い込まれたようにその能力に体が追いつかなかった。それでも通算17戦14勝でG1を7勝、2着3回の戦績を誇り、2着の内G1 Cotillion Sは1位入線後に降着となったためであり、最後のレースとなったApple Blossom Hでは日の出の勢いのLetruskaに6ポンドもの斤量差を与えてハナ差の2着である。近年の北米牝馬としては間違いなく最強であったと言えるだろう。

父のTapizarは北米競馬の最先端ともいえるTapitの産駒でその同族にPyroが出ている。Monomoy Girlは2年目産駒で、Tapizar産駒では唯一のG1馬である。

Swiss Skydiver

Daredevilの孝行娘二騎の片割れにして昨年の最優秀三歳牝馬

コロナウイルス感染症の流行により変則的な開催となった2020年はKentucky Derbyが9月に実施された。この時、Kentucky OaksではShedaresthedevilとSwiss Skydiverの1-2となり、その後Swiss Skydiverが牡馬相手にPreakness Sを勝つ活躍で、当時トルコに移されていた父Daredevilを北米に呼び戻す結果となった。

古馬になった今年はSanta AnitaのG1 Beholder Mile Sを勝って、G1 Apple Blossom HでMonomoy Girlに再び挑戦するが3着に終わった。熱発の影響でG1 Ogden Phipps Sをスクラッチしたが、牡馬相手のG1 Whitney Sを4着してG1 Personal Ensign Sに出走する。ここでLetruskaに対抗するも力尽き、BCの舞台にたどり着くことはできなかった。

BC後のFasig-Tipton November Saleにて、ノーザンファームが470万ドルで落札し話題となった。

雑感

産まれはアメリカながらメキシコで戴冠して戻ってきたLetruska、アルゼンチンから乗り込んできたBlue Stripe、日本から挑戦したMarche Lorraine、3歳の王道を歩んだMalathaat、正統牝馬路線を背負う形になったShedaresthedevil、マイナーな産地からのし上がったHorologistに堅実な脇役を務めるRoyal FlagとDunbar Road、3歳の上り馬であるPrivate MissionとClairiere、4歳で台頭したAs Time Goes Byと実に多様なプロフィールに彩られたフィールド、これが2021年のBreeders’ Cup Distaffです。私はこういう多様性こそが重要であると考えております。

今年の牝馬路線をリードするかと思われたのはMonomoy Girl、Swiss Skydiver、Shedaresthedevilでしたが、シーズン序盤にまとめてLetruskaという新星に主役を譲ってしまいました。この時、Shedaresthedevil以外の3頭が揃っていたApple Blossom Hは今年一番のビッグマッチであったと言えます。Swiss SkydiverがスクラッチしたOgden Phipps SにはLetruskaとShedaresthedevilが出走しており、実現していればこちらはもう一つの大一番となったでしょう。これはちょっと惜しかった。その後Momomoy Girlは順調にレースに使えない面が出てしまい、Swiss Skydiverも昨年の輝きを戻せませんでした。結果としてShedaresthedevilのみがBC Distaffに出走していますが、彼女も幾分か順調さに欠けており、レース当日は4番人気にまで評価を落としていました。

LetruskaはMonomoy Girl、Swiss Skydiverの両馬を直接対決で下し、たどり着けなかった彼女らの無念を背負う立場でありましたが、それはShedaresthedevilも背負っていたものではなかったか…そう思うと、スタート直後の意地の張り合いはまた違った趣きを持つことになります。単勝人気の面ではShedaresthedevilは4番人気に過ぎないとはいえ、やはりこのレースの物語の中心にいたのはこの2頭であったでしょう。あるいはMalathaatがプレップで古馬混合戦を経験していたならば本戦は全く違った様相を呈したかもしれません。

そうした物語の中でMarche Lorraineは異邦人です。Blue Stripeには半姉Blue Prizeというとっかかりがあるうえそのファミリーが北米から離れていたのはたかが20年です。Blue Prizeは3歳のMonomoy GirlがBC Distaffを勝つシーンに立ち会いましたし、逆に古馬になってからは3歳のDunbar RoadにBC Distaffを含めて二度苦杯を嘗めさせています。そういう面でBlue Stripeは薄い縁ながら関係を持っていました。一方Marche Lorraineは90年も前にオーストラリアから輸入されたShrillyに由来し、現代の北米との関わりは辛うじて母父がFrench Deputyであることくらいであると思えば、同じように北米での出走履歴がないとはいえBlue Stripe以上のThe Perfect Strangerでした。

いうなれば長編の物語の最終章で前振りなく現れたキャラクターに全部持っていかれるかのような理不尽、それもまた競馬の面白さかもしれません。それでもLetruska、Shedaresthedevilは現役に残ることが発表されていますし、去就が明言されていないながらもMalathaatなども現役にとどまるでしょうから、新しい物語に続いていくとも言えます。

View of Industrial-side

Letruskaの父Super Saverは種牡馬入りして初年度からCompetitive Edge、Runhappy、Embellish The LaceとG1馬を出したものの後が続かず見切られることになります。トルコに送られてからLetruskaという大駒が現れ、ペルーでも三冠馬Super Naoが現れました。

Swiss SkydiverとShedaresthedevilの父であるDaredevilもSuper Saverと同様トルコに送られました。どちらもWinStar Farmから2019年に放出されたものであり、トルコには一緒に送られたと考えられます。しかしながら、Daredevilは娘の活躍でアメリカに連れ戻されることになり運命は分かれます。この辺り、初年度産駒が競馬場で結果を出す前だったDaredevilと初年度産駒以降の結果が低迷していたSuper Saverの差はあるのでしょう。

また、Monomoy Girlの父Tapizarはそれなりの結果を出していた種牡馬でしたが、G1を勝てたのはMonomoy Girlだけであり、Tapit後継種牡馬の生き残り競争の面では見劣りがしていました。結果として2021年からは優駿スタリオンステーションでの繋養と北米からの放出が決まっていましたが、日本に輸出するための検疫中に馬房での事故により安楽死処置となり世を去りました。

今年の牝馬路線で主役となった牝馬たちの父はそれぞれに厳しい境遇にあり、むしろ脇役と思われる方の父がCurlinやQuality Road、Into Mischief、Candy Rideなどのように主流であるのは面白いところです。

どうもSuper Saverに関しては初年度の活躍馬Competitive EdgeやRunhappyに加えてI Spent Itまでもが実は例外的でEmbellish The Laceが本来の姿だったのではと思わなくもありません。Super NaoやSuper Turcoも見るにMr. ProspectorよりNorthern Dancerに寄せるべきだった的な感じで。Letruskaに関しては、分かるかこんなもん、と切れておきましょう。

DaredevilはSwiss SkydiverとShedaresthedevilの2頭のみが突出しており、それ以外は重賞クラスにすらなれていません。初年度に大駒を2枚有したことは望外の幸運であり、紐付きながらケンタッキーのトップティアに返り咲くことができました。

こうした馬産業界的な側面の動きは近年特に速くなっており、一部は拙速とすら思えるほどです。BC直後のFasig-TiptonやKeenelandのNovember Saleに勝ち馬を含めて大物牝馬が上場されるのも最早恒例と言えるまでになってしまいました。

こうした動きは何も北米に限ったことではありませんが、その中で特に繁殖牝馬セールで何度も社台ファームノーザンファームが落札して話題になり、それがいずれもここ数年の新鋭の種牡馬の産駒ででトップクラスに活躍した牝馬であるのは重要なポイントでしょう。そしてそれは最近始まったことではなく、ずっと以前から継続されていたということも。至近な実例を挙げるならばグランアレグリアが分かりやすいのです。