2021 Breeders' Cup回顧

今更ですが、今年のブリーダーズカップの回顧。Twitterで適当に書いていましたが、ちゃんとしたものをこちらに残しておきます。

Juvenile Turf Sprint: Twilight Gleaming

父のNational DefenseはTwilight Gleamingが初年度世代となる新進種牡馬。現役時代はフランスでG1 Jean-Luc Lagardereを勝つものの、3歳シーズンではDeauville開催となったPoule D'Essai des Poulainsに出走するが最下位に沈んだ。これを最後に引退し種牡馬入りした。早熟というより一発屋である。その父はInvincible Spiritで母方はAnna Paolaの流れを汲む。Irish National Studで種牡馬入りし、オーストラリアにシャトルもされており、血統背景を武器に現役実績に比して種牡馬としては恵まれている。

母系は1-l族でエリザベス女王所有の牝系に由来する。Amicableを端緒として母Thames Pageantまで女王が代々生産所有したもの。累代がDansili、Sadler's Wells、Machiavellian、Northern BabyとまあAlmahmoudにあふれている。

Keenelandでデビューし、2戦目で勝ちあがるとRoyal AscotのG2 Queen Mary Sに遠征して2着に入り、ついでとばかりにDeauvilleのリステッドレースを勝っている。その後北米に戻り3ヶ月ぶりの出走となった本レースを勝った。こういうことをやるということで察しの通りWesley A. Ward調教師の管理馬である。

うまいスタートからせりかけてきたOne Timerを返り討ちにすると直線で追い込んでくる後続を何とかしのいだ。

Blood-Horse: Breeders' Cup Juvenile Turf Sprint (G2T)


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Juvenile Fillies: Echo Zulu

父は気鋭の新種牡馬Gun Runnerで、もちろん本馬が活躍馬の筆頭として挙げられる。母父にMenifeeが入ってStorm Catのクロス。

母系は16-g Lea Larkの流れでLeallahの分岐に属して活躍馬が多数で、母LetgomyechoはG2馬である。半兄に父SpeightstownのEcho Townがおり、名の知れた近親としてはVoodoo Dancerが挙げられる。

デビュー戦を勝ちあがると東海岸でSpinaway S、Frizette SとG1を連勝し、3戦無敗で乗り込んで来た。本戦でもそれらと同じようにレースをリードして直線で後続をちぎり捨てた。最後は抜いていたが5馬身1/4差の圧勝である。

Blood-Horse: Breeders’ Cup Juvenile Fillies (G1)


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Juvenile Fillies Turf: Pizza Bianca

父はオーストラリアのトップサイアーFastnet Rock。クールモア・オーストラリアの屋台骨であり、北半球へのシャトル実績もあるが、北米産となる産駒は珍しい。オーナーがBobby Flayであることでも注目を集めた。Bobby Flayの所有馬ではMore Than RealもBC Juvenile Turfを勝っているが、当時はG3であった。またBobby Flay自身はWinStarと共同でCreatorを所有していたが、単独所有としてはPizza BiancaがG1初勝利である。母White HotもBobby Flayが所有し、Pizza Biancaは自家生産馬である。

22-d族Royal Statuteの母系に母父Galileoという血統背景を持ち、伯父にPour Moiが出ている。

Saratogaの芝戦でデビュー戦勝ちし、WoodbineのG1 Natalma Sを2着からの参戦であった。後ろからレースを進め、4コーナーでは馬群の最後方で前には壁が出来ていたが、内に潜り込んで進路が開いたところを抜けてきた。外に振った馬は伸びがいまいちで、待機策がうまくはまった。

Blood-Horse: Breeders' Cup Juvenile Fillies Turf (G1T)


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Juvenile: Corniche

9月にDel Marのデビュー戦を快勝し、10月にはG1 American Pharoah Sを勝つというキャリアで一番人気を背負うと再びPappacapを下して見事に応えた。外枠スタートからうまく先頭に立つと競りかけてくる相手もおらず、圧倒したわけではないがそのまま逃げ切りを決めた。

父は現代Gone West父系の中核にあるQuality Road。母父のNajranはRunaway Groom産駒の快速馬であるが、良くも悪くもRunaway Groomらしいという印象でG1を取れるほどの産駒は出なかった。

母系は1-xのSo Chicを通る系統で、どちらかというとMineshaftらが近親として出てくる分岐に属している。ブラックタイプは出ているが、La Troienneファミリーとしてはやや低調で、使われる種牡馬もランクを落としていたように見える。

Blood-Horse: TVG Breeders' Cup Juvenile presented by Thoroughbred Aftercare Alliance (G1)


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Juvenile Turf: Modern Games

物議をかもしたのは運営の動きなので、レース自体は完勝したModern Gamesを評価しておけばよいと思う。

道中を中団の内で耐えたModern Gamesは4コーナーから馬群がばらけると難なく外に持ち出し、先行勢をまとめて差し切った。道中後方からのTiz The Bombが内をついて伸びてくるもののModern Gamesとの差を詰めるほどの勢いはなかった。

Dubawiに母父New Approachという血統で、今年の芝戦を制圧したDubawi産駒の1頭目。母系は22-d Royal StatuteでPizza Biancaと同系であるが、こちらの方が本流に近いと言えるだろう。叔父にG1 Jean Luc Lagardereを勝ったUltraが出ている。

ゲート前のトラブルでModern Gamesの僚馬Albahrが取り消しとなったが、その際にミスによりModern Gamesも取り消しの発表がされてしまった。カリフォルニア州の競馬運営規則に基づいてModern Gamesは馬券対象外での出走となったが、取り消し発表前まで一番人気に支持されており甚大な影響が出ることになった。

Blood-Horse: Breeders' Cup Juvenile Turf (G1T)


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Filly And Mare Sprint: Ce Ce

父Elusive Quality、母Houdiniの5歳馬。去年は8Fを中心に走りBC Distaffでは5着の結果を得ていたが、今年は距離を短縮して7Fを中心とする路線に転向していた。G1 Ballerina SではGamineに及ばず3着だったが、G2 Princess Rooney SやG3 Chillingworth Sでは差し切って快勝しており、短距離への対応力を見せていた。

本戦ではGamineがBella Sofiaから圧を受けて楽なレースにできなかったことで、Ce Ceの差しが決まった形。GamineはコーナーでEdgewayに内を掬われてかなり厳しいレースとなり3着に終わった。

Blood-Horse: Breeders' Cup Filly and Mare Sprint (G1)


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Turf Sprint: Golden Pal

Uncle Mo、母Lady Shipmanの3歳馬。なぜかフロリダ産馬である。去年はJuvenile Turf Sprintを勝った。北米では芝スプリントのレースが少なく、今年はレース選択に苦労しているが、北米では負けなしであった。ただし、YorkのNunthorpe Sに遠征したときは7着に終わっている。

本戦は素晴らしいスタートを見せて逃げ切った。北米の芝スプリントなのでこちらもまたWesley A. Ward調教師の管理馬である。

牝系は1-xのStrikingであるが、Ogden Phippsの手を離れてからは長くカリフォルニアにあってブラックタイプどまりでパッとしなかった。母Lady Shipmanは21戦13勝の実績を上げているが勝ち鞍はブラックタイプやリステッドどまりで重賞はG3を1勝しただけである。しかし、BC Sprintで2着という実績もあり、この時は道中で他馬とぶつかる不利がありながらも勝ったMongolian Saturdayをクビ差まで追いつめている。その初子がGolden Palである。

Blood-Horse: Breeders' Cup Turf Sprint (G1T)


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Dirt Mile: Life Is Good

父Into Mischief、母Beach Walkという血統の3歳馬。通算6戦5勝で、G1 H. Allen Jerkens MemorialでJackie's Warriorの2着が唯一の敗戦であった。

スタートからコーナーまでに先頭に立ってそのまま逃げ切りである。3コーナーからGinobiliの挑戦を受けたがものともせず直線は突き放す一方であった。

13-c族Valkyrのファミリーに属するが、近親の目立った活躍馬といえば大叔母のDiamondrellaくらいである。

Blood-Horse: Big Ass Fans Breeders' Cup Dirt Mile (G1)


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Filly And Mare Turf: Loves Only You

Deep Impact、母Loves Only Meの5歳馬。父は偉大なるSunday Silenceの最強産駒にして最良の後継者。母方は20号族のMiesqueであり、現代競馬におけるトップファミリーの一つに数えられる。祖母MonevassiaはKingmamboらの全妹であり、その産駒にJohn F KennedyやTapestryの母であるRumplestiltskinを得て重きをなしている。Loves Only Meはその半妹にあたり、父がDanehillからStorm Catに替わったことでDeep Impactにとって理想的な血統構成の相手となった。

ラヴズオンリーユーは4戦無敗で日本のオークスである優駿牝馬を勝つが、その後は苦しみ4歳では未勝利に終わっている。転機は5歳となった今シーズンで、初戦のG2京都記念を勝つとドバイに遠征してG1 Dubai Sheema Classicで3着、香港に転じてG1 Queen Elizabeth II Cupを制した。休養を挟んで復帰したG2札幌記念では桜花賞馬ソダシの2着となって、再び海外遠征に踏み切った。Breeders' CupではFM TurfとTurfを両睨みしていたがFM Turfを選択し見事に勝利、日本調教馬にとって初めてのBreeders' Cup勝利をもたらした。

今年のFilly And Mare Turfは地元北米馬では前走でG1タイトルを手に入れたWar Like Goddessに欧州からLoveとRougir、前年勝ち馬のAudarya、北米芝牝馬路線で善戦するMy Sister Natとメンバーが揃ったレースであった。

前走でG1 Rodeo Drive Sを勝って挑戦してきたGoing To Vegasが引っ張るペースはやや遅く、LoveとLoves Only Youは並ぶように前目に付ける一方War Like Goddessは常のように後方待機策で今回は最後方からのレースとなった。3コーナーの手前から徐々にポジションを上げるWar Like Goddessの仕掛けに反応したLoveに対してLoves Only Youは内で耐える。4コーナーから直線に入るところで先頭にはWar Like Goddess、内で必死に抵抗するLoveがいて、すぐ後ろからLoves Only YouとMy Sister Natが差しに来る。出し抜きにかかるMy Sister Natに対してLoves Only Youが一瞬の反応でWar Like Goddessとの間を割り、まとめて差し切ってゴール。これが歴史を創った瞬間であった。2着にはMy Sister Natが入っている。Sistercharlieの半妹、Sottsassの半姉にあたり長く活躍しているが、またもG1タイトルには届かなかった。

Blood-Horse: Maker's Mark Breeders' Cup Filly and Mare Turf (G1T)


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Sprint: Aloha West

Hard Spun、母Island Boundの4歳馬でメリーランド産馬である。デビューは4歳になった今年で、勝ち上がったとはいえくすぶっていたが、夏のSaratogaで連勝すると前走はKeenelandのG2 Phoenix Sを2着し、Special Reserveを追い詰めたレースぶりに高い評価を受けていた。

Hard SpunDanzig最後の大物としてG1 King’s Bishop Sを勝って種牡馬入りし、快速馬を多く出す優秀な種牡馬である。母系は16‐aのCequilloでGonfalonを経由してくるもの。

レースは圧倒的人気のJackie’s Warriorが逃げるもSpecial Reserveも引かずに進み、この2頭を見る位置にいたDr. Schivelが直線で先頭に出て逃げ込みを図ったところに外から鋭く差し脚を伸ばしたAloha Westが首の上げ下げでハナ差前に出ていたところが決勝線であった。2着のDr. Schivelは3歳馬、勝ち上がりから5連勝中で西海岸スプリント路線の覇者であった。

Blood-Horse: Qatar Racing Breeders' Cup Sprint (G1)


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Mile: Space Blues

GodolphinDubawi産駒2頭目。9-e族Sunbitternのファミリーであり、Dubawiとは同族となる。欧州スプリント戦線での活躍馬で7F戦を得意としている。前走はフランスのG1 La Foretを勝っての参戦であった。

道中は好位置につけて、直線でしっかり差し切っている。2着に残ったSmooth Like Straitが作った緩いペースのレースとなり後方勢は早めに動いたIvarを除いて勝負にならなかった。

Blood-Horse: FanDuel Breeders' Cup Mile Presented by PDJF (G1T)


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Distaff: Marche Lorraine

父Orfevre、母Vite Marcherの5歳馬。日本での主な勝ちは川崎のG2エンプレス杯である。前走で門別のG3ブリーダーズゴールドカップを勝って遠征となった。

オルフェーヴルステイゴールドの最高傑作で、日本で三冠馬となると翌年には凱旋門賞に遠征して、Solemiaの差し脚に屈したものの、3着以下を大きく離した2着に入った。翌年にも凱旋門賞に遠征し、この時は一番人気に支持されたが、Treveの前にまたしても2着に終わった。この年の有馬記念を勝って種牡馬入りし、一年目からラッキーライラックエポカドーロを出す好調なスタートであったが、その後はやや伸び悩んでいた印象である。マルシュロレーヌは2年目の産駒にあたる。

マルシュロレーヌは日本に土着した牝系の出身であり、その祖はオーストラリアから輸入された7‐d Shrillyに遡る。その孫にあたるクインナルビーは夙に著名であり、自身が3200mの時代の天皇賞秋を制し、繁殖入りすると大きく牝系を発展させ、その末裔にオグリキャップを出している。マルシュロレーヌもこの一族に連なり、祖母は快速で鳴らした桜花賞キョウエイマーチである。母ヴィートマルシェキョウエイマーチの初子にして唯一の後継牝馬であった。

レースはスタートからShedaresthedevilとLetruskaが激しく先行を争い、Private Missionのリードで隊列が落ち着くが、ペースは速く、先行勢の消耗は激しかった。馬群は前後二つに分かれる形で、後方集団の先頭にDunbar Roadが、その後ろにMarche Lorraineがつけていた。4Fで45秒を切るペースを刻んだ先行集団は3コーナー前から早くも崩れ始め、これを外からまくっていったのがMarche LorraineとRoyal Flagの2頭である。4コーナーに差し掛かるとLetruskaとShedaresthedevilの人気2頭がすでに手応えを失ったことは明白であった。これにより後方集団からの差しあいとなるが、直線に入るところでMarche Lorraineが先頭、外に振られたRoyal Flagの手応えが怪しく、内を突いてきたDunbar Roadが一気に並びかけて最後は横に1頭分の間隔を開けたまま叩き合いとなった。Dunbar Roadが前に出る瞬間もあったが、写真判定の結果Marche Lorraineの勝利。FM Turfの快挙から約2時間、さらなる衝撃が駆け抜けたのであった。

”They come to the top of the stretch. It is MARCHE LORRAINE, ROYAL FLAG and CLAIRIERE on the far outside."

直線に入った時点のこの実況の価値は計り知れない。そして、

”Here comes DUNBAR ROAD, it's coming to the wire. And it is... hold desperately close!! Was it MARCHE LORRAINE or was it DUNBAR ROAD in the Breeders' Cup Distaff."

という決着を迎えるのである。直線の攻防で常にMarche Lorraineの名前が先に出るレースであるという事実。勝ったということに加えてこの内容。誇るべきである。

Blood-Horse: Longines Breeders' Cup Distaff (G1)


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Turf: Yibir

GodolphinDubawi産駒3頭目。23号族Arctic Melodyの一門で、全兄Wild Illusion、近親にはElectrocutionistが出ている。

3歳馬で去年は4戦して最後2連勝で終えている。明けて3歳となった今年はDerbyを目指して調整されるが、結果を出せずにドロップすると去勢される。8月のEbor YorkでG2 Great Voltiguerを勝ってアメリカに遠征し、Jockey Club Derbyを勝ってBC参戦となっていた。

連覇を目指すTarwanaが人気を集めるも混戦模様のフィールドで、有力馬は中団から後ろにつけてレースは進んだ。TribhuvanとAcclimateの2頭が後続を大きく離す形となるが、そのペース自体は平均的であった。向こう正面で隊列が詰まり、外にいたBroomeが3コーナーで捲りに行く。曲率の厳しいコーナーをクリアして直線で先頭に立ったのはBroome。Tarnawaは反応がなく、Broomeが抜け出していたが、大外からYibirが一気に伸びて差し切った。中団からじりじりと伸びたTeonaとJapanが3着と4着に入ったが、この辺りはBroomeに出し抜かれた印象で、Yibirだけが鋭い末脚でひっくり返すことができた。

Blood-Horse: Longines Breeders' Cup Turf (G1T)


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Classic: Knicks Go

父Paynter、母Kosmo’s Buddyという血統の5歳馬でメリーランド産。1‐wだがあまり活発ではないファミリーで、母系に代々配されている種牡馬も二線級というか名牝系の出身であることが第一に特徴となるような種牡馬ばかりである。

2歳の早くから活躍し、G1 Breeders’ Futurityを勝って、BC Juvenileでも2着に入ったが、その後3歳では低迷した。4歳の去年も振るわなかったが、Keenelandのアローワンスを圧勝して臨んだDirt Mileを勝って古馬のトップに立った。今年はG1 Pegasus World Cupを勝つが、中東に遠征してSaudi Cupで4着、帰国してのG1 Met Mileも4着となる。Prairie MeadowsのG3を圧勝して立て直すと、G1 Whitney H、G3 Lukas Classicを連勝してBC Classicに出走することとなった。

レースは3歳のEssential Qualityが人気を集め、同じ3歳のHot Rod Charlie、Medina Spiritに古馬のKnicks Goを加えた3頭が2番手クラスの評価を受けていた。レースの展開は絡まれると脆いKnicks Goが単騎逃げで行けるかに左右されると考えられていたが、Knicks Goが好スタートからハナを主張するとあえてこれに挑戦してくる馬はなく、落ち着いたペースで進むことになった。Knicks Goにとっては願ってもない展開であり、直線でもHot Rod Charlieと馬体を合わせるのを拒むように馬場の半ばに持ち出して押し切る態勢に持ち込む。3歳のMedina Spirit、Essential Qualityも追い込んでくるが、自身のペースでレースを作ったKnicks Goは余力十分で追い上げを許さなかった。

Blood-Horse: Longines Breeders' Cup Classic (G1)


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総評

1.日本調教馬によるブリーダーズカップ初勝利

今年のシリーズ全体でも有数のトピックになると思われる。

個人的にはFilly And Mare Turfはもっとも狙いどころのレースというのは以前から思っていた。北米芝牝馬路線の脆弱さと平坦なトラックコースでの日本馬の強さが主な理由である。一方で、わざわざ京都のエリザベス女王杯を袖にしてまでアメリカに遠征することの利はないとも考えていた。

今年はラヴズオンリーユーという理想的なコンテンダーを得ていたといえるだろう。日本のオークス馬であるという実績はもちろんのこと、今年になって海外遠征に活路を見出す形になっていたからである。それでも、秋はエリザベス女王杯で国内の頂点を狙ってほしかった気もするのは、わがままであると知りつつ何とも言えない気分である。

長年、芝のレースはFM Turf、Mile、Turfくらいの順に勝つチャンスはあるだろうと思っていたが、逆にまったく勝てると思っていなかったのがダートのレースである。とりわけ国内の路線が十分ではない牝馬や短距離路線ならなおさらであった。したがってマルシュロレーヌの出走は挑戦として価値はあるが、勝ち負けのことは全く考えられないものであった。

Marche Lorraineの勝利が展開に恵まれたものであることは否定できない。だが、今年のシリーズでは逃げ切りがよく決まっており、オーバーペースに巻き込まれることになったがShedaresthedevilやLetruskaは前に行って勝負しなければならなかったとは言える。結果として先行馬群は総崩れとなって後方集団の勝負だったが、これにしても基本的に集団の前目に位置を確保している必要であった。Marche Lorraineにとって理想的なレース展開を引いたことになるが、出走しないことには始まらないということを強く思わされた。

日本のダート牝馬路線でマルシュロレーヌはTCK女王盃エンプレス杯を勝っているがG1勝ちはない状況で、今年のJBCが金沢開催でレディースクラシックは1500mに設定されていたというのもこの挑戦を決めた要素の一つかと思われるが、うまくいったときには全てがそのように綺麗にはまったように見えるものだと実感する。

なお、日本産馬と括ってしまうとKarakontieがいるので注意しましょう。

2.無敗の2歳チャンプ

2歳戦では牡馬牝馬ともにダートは無敗馬の戴冠であった。

Cornicheは3戦無敗、Echo Zuluは4戦無敗となるBCでの勝利を、いずれも逃げ切りで決めている。

Cornicheは最終的には一番人気であったが、Jack Christopherの回避を受けてのものである。本戦にあっても他馬を圧倒したようには思われず、むしろPappacapに対しては前走から詰められていた。ひとまず無敗で2歳王者になったものの、絶対的な存在感には程遠い。

対するEcho Zuluは強さを見せつけたという印象を受ける。レースをリードすると直線でさらに差を広げてまさに完勝といえる。こちらは文句なしに世代トップの評価を受けて良い。

レースの時計や指数からしてもJuvenile FilliesのEcho ZuluがCornicheを上回っており、Cornicheの評価が上がりきらないのはこの辺りも原因だろう。

3.Lasix-Free Event

今年はBCとして初めてLasixの使用を認めない開催となった。とはいうものの、それ以上に薬物使用懸念があるBaffert厩舎の管理馬をどう扱うかの方が問題であり、BCでは追加の検査を行うことで出走を認めた。Baffert厩舎には有力馬が多く、Juvenileを勝ったCorniche、Classicで2着のMedina Spirit、FM Sprintで3着のGamineがそれである。特にCornicheについては現状でChurchill DownsがBaffert厩舎からの出走を拒絶しているため、Kentucky Derbyに向けてどのような駆け引きが行われるかが注目である。

Lasixの有無については、このシリーズだけをいうなら結果に影響するほどのものはなかったのではないかと見ている。長期にわたってLasixを使わない開催環境が維持されたときに何らかの影響を認めることはあるかもしれない。

4.Godolphinの芝Dubawi

Juvenile Turf、MileそしてTurfと芝の3レースでGodolphinDubawi産駒が勝利した。2勝なら開催規模が拡大する前からでもあったが、同一種牡馬の産駒が同一開催でBCを3勝というのは初めてかな。GodolphinDubawi産駒でそれを達成したというところに矜持を見る思い。

種牡馬となったその年の春に夭折したDubai Millennium。その限られた産駒の中で唯一のG1馬であるDubawi種牡馬としても大いに成功し、欧州を中心に50頭に及ぶG1馬を出し、一大父系を築きつつある。

BCでは2017年のDel Mar開催でWuheidaがFilly And Mare Turfを勝って以来の勝利となっている。ダートでの活躍馬は限られており、北米にはDubawi父系が進出できていないが、やはりDubawiを使っていくことをしっかり考えなければいけないという印象は受ける。

5.逃げ切り

今年のレースでは逃げ切りが目立った。2歳戦ではTwilight Gleaming、Echo Zulu、Cornicheが逃げ切りを決めたし、二日目でもGolden Pal、Life Is Good、Knicks Goが逃げ切って勝利した。中でもGolden Palなどは素晴らしい出足を見せていて、もうそのスタートだけで勝負ありというものであった。

一方でDistaffは先行争いが度を越えすぎていて総崩れになったし、Sprintでもオーバーペースになって差し馬が台頭したのだが、基本的にコーナーがきついDel Marということもあって先行有利だったとは思われる。

6Juvenile Turfの不手際

Modern Gamesが1位入線した後の雰囲気が最悪で、BCのゴール後にこんな状況になるというのは思いもしなかった。You Tubeの公式チャンネルでもそれまでのレースはスムーズにレース映像がアップロードされていたのに、Juvenile Turfだけはいつまでたってもアップロードされなかった。Twitterアカウントも沈黙状態で、プレスリリースを出すのがやっと。1日目の最終レースだったからまだマシだったのかもしれない。

なお、レース映像に関していうと、Blood-Horseのサイト上には常のようにレース後に映像が来ていたし、あそこはゴール後の解説まで含めた映像になっているので、異様な現地の雰囲気と戸惑いを隠せない実況の様子をうかがえるものとなっている。