2015年北米種付け動向

アメリカのThe Jockey ClubはAnnual NA Registered Foal Cropというデータを公開しており、合衆国、カナダ、プエルトリコの産駒登録頭数が確認できます。確定値になるまでしばらくかかるので推計値になるのですが、三地域すべてで2015年の推計値は2014年と変わらず*1、長く続いてきた生産規模の減少が止まったことを示しています。これは前回のReport of Mares Bredをまとめた記事でも触れました。
ただしこれは全体の話であり、各州の生産統計はまた別の様相を示していますので上位を個別に見ていきましょう。分かりやすいネタ元は同じくThe Jockey Clubが公開しているこちらから。
US DISTRIBUTION OF ACTIVE STALLIONS AND MARES BRED | The Jockey Club

Kentucky

2015年のMares Bredは17265頭となっており、2013年と比較しても約1600頭増加して順調な回復を見せています。一方で種牡馬を取り巻く状況は厳しく、2013年の262頭が2015年には214頭にまで減少しています。1頭当たりの平均は80.7頭と出ており、ケンタッキー州では200頭を超える種付けを行う種牡馬が複数出ていることも影響しているのでしょうが、明らかに高い数字となっています。
ケンタッキー州の場合ここからレジスタードフォールが8000頭程度になると思われます。半数以上がどこかに消えるのですが、一部は州外へ流出しています。行先は多様で、日本に来ている分もありますね。いわゆる持込み馬となるケースです。近年だと北米だけでも3000頭程度が州外で産まれているようです。
とはいえ、それだけに帰着させるにはあまりにも大きな差があり、これが、毎年種付け頭数が一桁程度の種牡馬の結果を見ていて思い知らされる登録産駒なしというケース。受胎率及び産駒出生率が低いのは下位の種牡馬に多いので、産駒出生数をベースにすると上位種牡馬への集中はより強く見えてくると思います。Breeding Statisticsの数字を確認すれば出せないこともないですが。
ケンタッキー州の生産規模は産駒登録ベースで考えても日本やアイルランドに匹敵します。種牡馬頭数が減少したので、種牡馬一頭当たりの平均産駒頭数などは他の生産国と比べて高い水準にある日本やアイルランドを上回っており、寡占化が進行しています。
で、ケンタッキー州内だけの種付け頭数を見るとA.P. Indy直系が3025頭でトップです。北米全体のA.P. Indy直系が5618頭の種付け頭数ですから、過半がケンタッキー州での種付けとなっています。一方Storm Cat直系は2701頭の種付けであり、北米全体のStorm Cat直系が5693頭であることから、その半数を割り込んでいます。ここが現在の北米におけるA.P. Indy系とStorm Cat系の状況の違いを示していると思います。
これらに続くFappiano直系は1928頭とケンタッキー州への集中率が高いのですが、これはケンタッキー州外に有力な種牡馬がいないことを示しているのですね。せいぜいルイジアナ州のSongandprayerとHalf Ours、フロリダ州のWinslow Homer、ニューヨーク州のMission Impazibleといった程度で。
Nearc又はNative Dancerを経由しない父系はTiznowを含むIn Reality直系とMacho Uno、Mucho Macho Man親子がまとまった種付け頭数を確保しているものの、その他のラインは壊滅に近いです。Broad Brushの血を受け継ぐIncludeにしてもパッとしません。Pleasant Colonyのラインが衰退したHis Majestyの直系はAlbertus Maximuxに望みをかける状況に陥っています。少なくとも北米の中核を成すケンタッキー州では斯くの如き状況であり、既に父系の多様性は失われていると見るべきではないかな。

Florida

2番手のフロリダ州ですら2938頭という数字ですから、北米でのケンタッキー州の突出ぶりは明らかです。これに種牡馬繁殖牝馬ともに血統や実績といったところでも差がついています。そうは言っても例年の傾向からフロリダ州産馬のレジスタードフォールとしては2000頭を超える程度になりそうで、フロリダ州だけでも南米のウルグアイやチリを規模で上回っています。
フロリダ州の生産規模は2013年からほぼ横ばいで推移していますが、種牡馬頭数は減少しています。それでも種牡馬1頭当たりの平均種付け頭数が22.8頭ですから、ケンタッキー州とは明らかな差があります。
フロリダ州の場合はトレンドに追従する傾向があり、TapitならHe's Had EnoughとRattlesnake Bridge、GalileoならTreasure Beachが導入されています。なので、特に最近のフロリダ産のチャンピオン級というのが思いつかないのですよね。

California

2015年のカリフォルニア州では2662頭の種付け報告があり、2013年以降徐々に回復しつつあります。
カリフォルニア州種牡馬構成は特徴的で、2015年に最多の種付けとなったのはChamp Pegasus(父Fusaichi Pegasus)でした。現在の北米での二大主流父系と言えるStorm CatA.P. Indyカリフォルニア州での地歩を確保できていません。
導入が進んでいなかったStorm Cat直系はSmiling Tigerが人気を集めているのと、Bluegrass Catがやってきたので今後変化が見られそうです。ただし、西海岸の活躍馬であるSmiling Tigerと良血ではあるものの産駒成績が付いてこずケンタッキー州からニューヨーク州を経てカリフォルニア州に流れてきたBluegrass Catでは置かれている状況がかなり異なります。
A.P. IndyCalifornia Chromeを出したLucky Pulpitがいますが、California Chrome以外では重賞勝ちすら出ていないので、前年から半減してますね。
Unusual HeatのラインやCoilなどがそうですが、西海岸で活躍した馬がそのままカリフォルニア州種牡馬入りとなるケースは多く、これが独特な種牡馬構成の原因となっています。フロリダ州との違いは通年でトップクラスの開催があることと、東海岸や中部とかけ離れた地理的条件によるものでしょう。
カリフォルニア州からは時折強力なチャンピオンを輩出することがあり、TiznowやCalifornia Chromeという実績があります。大物の輩出というところではフロリダ州より優秀ではないかな。
カリフォルニア産馬が種牡馬としてケンタッキー州に戻ってサイアーラインを復興するケースはTiznowがそうですし、Indian Charlieもそれですね。Unusual Heatの後継からも出てきてくれませかね。Nureyevの直系が北米で残るにはもうこれしかないんや。

Louisiana

2015年のMares Bredが1571頭でニューヨーク州とは微差ですがルイジアナ州が上回りました。種付け頭数のピークは4100頭を超えていた2007年で、その後急激に種付け頭数が減ったフロリダ州カリフォルニア州を上回って2010年は種付け頭数で全米2位になったこともありますが、前2者とは異なっていまだに減少に歯止めがかからず削られて続けている状況です。このままだと今年の種付け頭数で変動幅の小さなニューヨーク州に逆転される気がします。
現在Songandaprayerがいます。

New York

2015年のMares Bredは1547頭。1200頭を割り込むところまで一気に落としてから、1600頭前後に戻してきています。
長い間、Giant's Causewayの全弟となるFreundがニューヨーク州の目玉でしたが、近年はケンタッキー州から移ってくる種牡馬が多く、現在Big Brown、Courageous Cat、Posseといった種牡馬ニューヨーク州を拠点としています。

New Mexico

1000頭を割り込んで925頭の報告がありました。ピークから半減していますが、一応減少は止まったと判断できるレベルです。
このクラスの生産州になってくると、州内産馬限定戦で賞金を稼ぐのがパターンですね。なので競争相手は同じ州内の種牡馬となるので、そこで優位に立っていればある程度良い状況をつかむことができそうです。
Fusaichi Zenonの2015年は10頭ですね。

Oklahoma

2015年は837頭。最近の動きはニューメキシコ州とほとんど変わりませんね。オクラホマ州の場合はそれ以前から長期的に減少していたという事情があるだけで。

Maryland

2015年は751頭。もともと長期的な低落傾向だったところを経済危機が加速させた側面はあるのですが、一時500頭台まで減らした種付け頭数を若干戻してきたとも言えます。メリーランド州はかつてE.P. Taylorが合衆国での生産拠点を持っていたこともありその流れを汲むNorthview Stallion Stationに加えてHeritage Stallions、Country Life Farmといった種馬場はニューヨーク州に匹敵するクラスの種牡馬をそろえています。

Texas

2015年は690頭となり、盛期は4000頭を超えていたようですが見る影もありません。テキサス州にはLane's Endの分場やTeam Valorの生産拠点があり、種牡馬の質はそれなりに高めなのですが、規模の縮小が止まりませんね。

Pennsylvania

ペンシルヴァニア州の種付け数は664頭で、縮小に歯止めがかかっていない状況です。上位はEl Padrinoが109頭、Jump Startが102頭とA.P. Indyの直系が大きな割合を占めています。A.P. Indy直系では他にCorinthianもペンシルヴァニア州におります。他にはSmarty JonesやAlbert The Greatが有名なところでしょうか。

カナダ

合衆国の上位10州は上記の通りで、カナダのオンタリオ州は今1000頭を切る状況でオクラホマ州と同規模です。もっともその質は全く異なります。カナダの馬産の中心地となるオンタリオ州はAdena Springsが分場を構えており、種牡馬の質は高いです。E.P. Taylorの本拠地もオンタリオ州でしたし、カナダ産馬の一流馬が数多くオンタリオ州から出ています。Silent Nameは2014年の102頭から2015年は57頭と大きく減らしています。
オンタリオ州に続くのがアルバータ州ブリティッシュコロンビア州といったところでしょうか。

*1:US: 20300、Canada: 1400、Puerto Rico: 300