南アフリカ競馬の紹介その2:レース

競走体系

2010年にFIFAワールドカップが開催された関係で冬開催の重賞日程の調整が行われ、その際にダーバンのG1開催が再編されることになりました。いくつかのG1の開催がクレアウッド(Clairwood)競馬場からグレイヴィル(Greyville)競馬場に変更されるとともに日程も変更となり、ダーバンでは従来のダーバンジュライ(Durban July)開催とは別にゴールドカップ(Gold Cup)をメインとしたG1の集中開催が行われることになりました。
他のエリアでもG1の集中開催は行われており、1月末のケニルワース(Kenilworth)競馬場ではJ&Bメトロポリタン(J&B Met)をメインとして、ケープダービー(Cape Derby)とマジョルカS(Majorca S)を同時に開催します。
ターフフォンテン(Turffontein)競馬場では3月末か4月初頭の南アフリカクラシック(SA Classic)開催でホースチェスナットS(Horse Chestnut S)と南アフリカフィリーズクラシック(SA Fillies Classic)を同時開催しますし、4月の末にはチャンピオンズデイ(Champions Day)として南アフリカダービー(SA Derby)、チャンピオンズチャレンジ(Champions Challenge)、コンピュータフォームスプリント(Computaform Sprint)をまとめて開催します。このチャンピオンズデイではG2南アフリカオークス(SA Oaks)も開催されますし、ナーサリーS(Nursery S)がG1に昇格したことで、このTurffonteinの開催から2歳戦のG1が始まることになります。
Greyville競馬場は7月初めのDurban July開催でガーデンプロヴィンスS(Garden Province S)とゴールデンホースシュー(Golden Horseshoe)、ゴールデンスリッパ―(Golden Slipper)が開催され、7月末にはGold Cupをメインとしてチャンピオンズカップ(Champion's Cup)、プレミアズチャンピオンS(Premier's Champions S)、テクウィニS(Thekwini S)をまとめて開催します。
また特殊な例としてスコッツヴィル(Scottsville)競馬場が5月にゴールデンホースカジノスプリント(Golden Horse Casino Sprint)、南アフリカフィリーズスプリント(SA Fillies Sprint)、メダリオン(Medallion)、アランロバートソンチャンピオンシップ(Allan Robertson's Championship)という1200mの四つのG1を一斉開催します。
現在の南アフリカでは主要な競争は2000mまでで行われるようになっています。各地区で古馬のチャンピオンを決めるレースが開催され、Kenilworthは1月のJ&B Met、Greyvilleは7月のDurban Julyがそれに該当します。Turffonteinのレースでは11月のサマーカップ(Summer Cup)がその役割を持っていましたが、近年は4月のSA Derby開催が強化されたことに伴い、Champions Challengeが重要視されています。これらのうちDurban Julyは距離が2200mと200m長く設定されていることとハンデ戦で行われることが波乱の原因となりやすく、ポケットパワー(Pocket Power)はそのハンデに苦しめられることになりました。
今シーズンの賞金を見るとDurban Julyの325万ランドが最高額で、J&B Metがそれに続く250万ランド、Summer CupとChampions Challengeはそれぞれ200万ランドとなっています。

高額賞金戦一覧(2012-13シーズン)
  • Durban July (Greyville): 325万ランド
  • J&B Met (Kenilworth): 250万ランド
  • Summer Cup (Turffontein): 200万ランド
  • Champions Challenge (Turffontein): 200万ランド
  • SA Classic (Turffontein): 200万ランド(3歳限定)
  • Gold Cup (Greyville): 150万ランド
  • SA Derby (Turffontein): 150万ランド(3歳限定)
  • Daily News 2000 (Greyville)>150万ランド(3歳限定)
  • Queen's Plate (Kenilworth): 100万ランド
  • Horse Chesenut S (Turffontein): 100万ランド
  • Computaform Sprint (Turffontein): 100万ランド
  • Cape Guineas (Kenilworth): 100万ランド(3歳限定)
  • Gauteng Guineas (Turffontein G2): 100万ランド(3歳限定)
  • Paddock S (Kenilworth): 100万ランド(牝馬限定)
  • Empress S (Turffontein): 100万ランド(牝馬限定)
  • SA Filies Classic (Turffontein): 100万ランド(3歳牝馬限定)

以上が総賞金100万ランドを超えるレースです。物価が異なるので直接の比較は難しいですが、現在の為替レートでは1ランドが約10円です。

古馬

南アフリカ古馬戦は夏のKenilworth、秋のTurffontein、冬のGreyvilleがトップ開催となります。
シーズン開幕後しばらくは大きなレースがなく、上位馬は11月にTurffonteinで開催されるサマーカップ(Summer Cup)か1月のKenilworth開催に向けて調整されます。Summer Cupは高額賞金のレースですが、この時期は古馬有力馬がまだ休養中であることが多く、ケープエリアからの遠征が少ないことからその価値を落としています。
Kenilworthは12月から1月がハイシーズンでその締めくくりがJ&Bメトロポリタン(J&B Met)です。その後KenilworthからTurffonteinに移って、3月末のホースチェスナットS(Horse Chestnut S)、4月末ごろのチャンピオンズチャレンジ(Champions Challenge)が古馬のターゲットです。6月になるとダーバンでの開催になり、7月のダーバンジュライ(Durban July)が南アフリカ最大のレースです。
KenilworthとTurffonteinはどちらかのみというパターンも多く見られます。例としてマイク・ベース(Mike Bass)調教師はほとんどTurffonteinに遠征しないため、ポケット・パワー(Pocket Power)などもTurffonteinでの出走は限られていました。逆にピエールジョーダン(Pierre Jourdan)はTurffonteinばかりで出走していました。冬のGreyville開催にはケープタウンヨハネスブルグの両方から遠征馬が集まってくる傾向にあります。
長距離戦はゴールドカップ(Gold Cup)がG1として行われます。Greyvilleの3200mで開催されるG1です。かつては単独で開催されるG1でしたが、ダーバンのG1開催が再編された結果、中距離戦のチャンピオンズカップ(Champions Cup)、2歳戦のプリミアスチャンピオンズS(Premiers Champions S)及びテクウィニS(Thekwini S)と四つのG1を同日に開催するフェスティバルのメインに位置づけられることになりました。これによって賞金も150万ランドに増額されています。
短距離路線ではG1が各地で開催されています。2011年のドバイ開催で芝のアルクオズスプリント(Al Quoz Sprint)を勝ったJ J The Jet Plane、2着のウォーアーティスト(War Artist)はどちらもClairwoodのマーキュリースプリント(Mercury Sprint)の勝ち馬でした。1400m以上のレースは中距離馬の調整に使われることも多く、スプリンターのレースにはなりにくいです。

3歳戦

3歳のレースはKenilworthで12月に開催されるケープギニー(Cape Guineas)とTurffonteinで4月に開催される南アフリカクラシック(SA Classic)、南アフリカダービー(SA Derby)が頂点を占めます。
Kenilworthの3歳戦はかつてはケープダービー(Cape Derby)を勝った馬がその後J&B Metに挑戦することができる日程で組まれていましたが、現在ではCape DerbyとJ&B Metは同日開催となり、3歳馬のJ&B Met挑戦は少なくなっています。KenilworthではCape Guineasは牡馬戦、牝馬戦ともにG1として開催されますが、Cape Derbyに対応するCape Oaksは開催されていません。賞金でもCape Guineasが上回っており、Cape Derbyの地位が低下しています。
Turffonteinではハウテンギニー(Gauteng Guineas)からSA Classic、SA Derbyという路線が用意されています。Cape Derbyはすでに2000mに距離が短縮されて久しいですが、SA Derbyは2450mの距離で開催されます。その反面距離が長いことを嫌う陣営もあって1800mのSA Classicに重点が移っており、賞金額もSA Classicが200万ランド、SA Derbyが150万ランドとなっています。また、SA Derbyと対になる南アフリカオークス(SA Oaks)はG2格である一方、南アフリカフィリーズクラシック(SA Fillies Classic)はG1格を有していることからも、南アフリカ競馬の中距離化は明らかです。
ダーバンではGreyvilleでデイリーニューズ2000(Daily News 2000)という3歳限定のG1が存在しますが、このレースの扱いはDurban Julyへのステップの一つにとどまります。数年前までは距離が2200mでDaily News 2200として開催されていました。このG1とは別にギニー、ダービーの体系がKRAギニー(KRA Guineas)、ゴールドサークルダービー(Gold Circle Derby)として存在しています。
GreyvilleのG1に間に合わなかった3歳馬はKenilworthの冬開催を選択することがあります。ウインターギニー(Winter Guineas)、ウインタークラシック(Winter Classic)、ウインターダービー(Winter Derby)で構成されるシリーズです。ケープでデビューの遅れた馬がこのパターンを踏むことが多く、ポケットパワー(Pocket Power)がその一例です。
南アフリカ全域での三冠体系はすでに失われています。直近で三冠馬となったのは1999年のHorse Chestnutで、彼はCape Guineas、SA Classic、SA Derbyを勝って三冠馬と呼ばれることになりました。現在の三冠として扱われるのはTurffonteinで開催されるGauteng Guineas、SA Classic、SA Derbyの3戦です。ターフフォンテンを管轄するフューメレラ(Phumelela)によってアピールがなされておりますが、この三冠の達成馬は現れていません。SA Derbyの距離が2450mと長く、Gauten GuineasやSA Classicと求められる要素が異なることが達成を難しくしているようで、北米のベルモントS(Belmont S)と通じるものがあります。2010年にはGauteng GuineasとSA Classicを軽くクリアしたピエールジョーダン(Pierre Jourdan)がSA Derbyで2着に敗れています。また、Kenilworthで実績を積んだ3歳馬はTurffonteinに遠征してきてもGauteng Guineasをスキップする傾向があります。
牝馬戦で対応するレースはハウテンフィリーズギニー(Gauteng Fillies Guineas)、SA Fillies Classic、SA Oaksとなり、この三冠は2011年にイググ(Igugu)が達成しました。
KenilworthのWinter Guineas、Winter Classic、Winter Derbyが冬季三冠として扱われることがあります。

2歳戦

2歳路線は年明けのKenilworthやTurffonteinの開催からGreyvilleのG1という形が主な路線となります。TurffonteinのナーサリーS(Nursery S)がG1に昇格していますが、来シーズンまで見据えると冬のダーバン開催を待つことになるでしょう。Scottsvilleで1200mのG1が開催されますが、位置づけとしてはかなり特殊なものです。Durban Julyの開催でGolden HorseshoeとGolden Slipperが開催され、その後Gold Cup開催でPremiers ChampionshipとThekwini SがG1として開催されているので、この2つのシリーズが重要となります。
南アフリカはオーストラリアからの輸入馬が多く、それらは特に早く仕上がるため2歳戦を席巻します。

南アフリカのG1

Summer Cup 芝2000m

11月にTurffonteinで開催されるシーズン最初のG1です。1960年代からケープのMetropolitan、ダーバンのDurban Julyとともに南アフリカビッグスリーと称され、Turffonteinの春開催を締めくくるレースですが、他のG1と比べるとやや浮いた時期に開催されるため、このレースを目標にする馬は少ないです。遠征を苦にしない場合はこの後Kenilworth開催を目指します。Turffonteinに止まる場合は秋開催の開幕を待つことになります。

Cape Guineas, Cape Fillies Guineas 芝1600m

南アフリカで開催されるギニー戦としては唯一G1格を持つKenilworth競馬場のギニーです。12月に開催されています。近年の南アフリカではトップレベルの牝馬が牡馬相手に通用するケースが多く、Cape Fillies GuineasからCape Guineasに転戦する牝馬も出てきます。

Paddock S 芝1800m, Queen's Plate 芝1600m

1月初めにKenilworthで開催され、J&B Metの前哨戦となるレースです。Paddock Sは牝馬限定戦です。

Cape Flying Championship 芝1000m

Kenilworthの1000mの直線コースで行われるスプリント戦です。南アフリカのスプリント路線は競馬場による向き不向きが出る傾向が強くあります。

J&B Met 芝2000m

Kenilworth競馬場最大のレースです。1883年にメトロポリタンマイル(Metropolitan Mile)として開催が行われた記録が残っています。3歳馬は同日に同条件でCape Derbyが開催されますが、アローワンスを考慮してJ&B Metを選択するケースがあります。

Majorca S 芝1600m

Kenilworth競馬場の牝馬限定戦です。距離をこなせる牝馬は同日のJ&B Metに流れてしまうので、スプリンター寄りの結果になることが多いマイル戦です。

Cape Derby 芝2000m

Kenilworth競馬場のダービーでG1格を保持していますが、3歳の有力馬をメインのJ&B Metに持っていかれることが多く地位が低下しています。

Horse Chestnut S 芝1600m

Turffontein競馬場の秋開催のG1です。古馬のトップクラスはここからDurban Julyまでを視野にローテーションが組まれて行きます。

SA Classic, SA Fillies Classic 芝1800m

南アフリカの3歳限定戦では最大目標となるレースです。Turffontein競馬場でHorse Chestnut Sと同日に開催されます。

Empress Club S 芝1600m

Turffontein競馬場の牝馬限定戦。開催日が変更されて4月前半の平日に開催されるようになりました。その日程設定の根拠となるあたりはわかりません。

SA Derby 芝2450m

Turffontein競馬場のDerby格を持つレースで、Truffonteinの三冠の最後となります。距離が長く、結果が荒れやすいレースになっています。アメリカのBelmont Sとかなり似た印象のレースです。

Champions Challenge 芝2000m

SA Derbyと同日に開催される古馬戦で、賞金などを見るに開催の主はこちらのレースになっています。

SA Nursery 芝1200m

G1に昇格した2歳戦。Turffonteinで2歳のG1をやりたかったのかなといった程度。SA Derbyに合わせて開催されます。

Golden Horse Casino Sprint、SA Fillies Sprint、Medallion、Alan Robertson Championship 芝1200m

Scottsville競馬場で一斉開催されるスプリントG1です。SA Fillies Sprintが牝馬限定、Medallionが2歳戦、Alan Robertson Championshipが2歳牝馬限定戦です。

Daily News 2000, Woolavington 2000 芝2000m

Greyville競馬場の3歳戦で、Durban Julyへのステップになるレースです。Woolavingtonが牝馬限定戦です。

Gold Challenge 芝1600m

Clairwood競馬場のG1で、こちらは距離が足りませんが古馬がDurban Julyへのステップに使うことも多いです。

Durban July 芝2200m

1897年に初回の開催が行われ、ケープとヨハネスブルグからの馬が集まる南アフリカ最大のG1です。
Greyville競馬場で開催され、南アフリカでもっとも有名なレースですが、距離が2200mであることに加えてハンデ戦で行われるため、有力馬が足元を掬われる結果に終わることも多いです。南アフリカのハンデはメリットレートを基準としてつけられています。

Garden Province S 芝1600m

July開催の牝馬限定戦です。牝馬の場合は距離の関係でこちらを選ぶことが多くなります。

Golden Horseshoe, Golden Slipper 芝1400m

July開催の2歳戦でGolden Slipperが牝馬限定戦です。

Mercury Sprint 芝1200m

Clairwood競馬場のスプリント戦です。少し前は南アフリカからRoyal Ascotのスプリントに遠征する例があり、出走馬が薄い時期もありました。

Gold Cup 芝3200m

Greyville競馬場で行われる長距離戦で、今年は賞金を150万ランドに増額しました。ステイヤーが集まり、他のレースとは出走馬の様相が異なります。また、中距離路線を諦めた古馬が出走してくることもあります。

Champions Challenge 芝1800m

Greyville競馬場の古馬戦ですが、Durban Julyの後に開催されるため、出走メンバーは薄くなりがちです。かつてはClairwood競馬場で開催されていました。

Premiers Champions S, Thekwini S 芝1600m

Greyvilleの2歳限定戦。Thekwini Sが牝馬限定戦です。