南アフリカ競馬の紹介その1:概要

南アフリカ競馬の歴史

現在の南アフリカ地域に競馬を持ち込んだのはイギリスです。イギリスの勢力拡大に伴って競馬が実施されるエリアも拡大しました。
ケープタウンはオランダ人が入植して開拓された都市でしたが、1795年にナポレオンによってオランダ本国が占領される混乱をついてイギリスがケープタウンを占領します。この後ケープタウンの領有権はイギリスとオランダの間で揺れますが、1815年のウィーン議定書でイギリスの領有が確定します。この間の1797年にはイギリスの手によって南アフリカで初めての競馬が開催され、1802年からクラブ組織によるレース開催が記録に残されています。ケープにおける開催と同じようにイギリスはフランス領モーリシャスを占領すると、ここでもさっそく1812年には競馬開催を行っています。さらにイギリスはケープ植民地の東部に1820年ポートエリザベスを建設し、競馬開催も東ケープに拡大します。ナタールではイギリスがナタール共和国をケープ植民地に併合した翌年の1844年にはグレイヴィル(Greyville)で競馬開催が実施されています。北部のトランスヴァールでは金鉱が発見された翌年の1887年にターフフォンテン(Turffotein)で競馬が開催されるに至っています。またその北にある現在のジンバブエにはイギリス南アフリカ会社が進出しており、1892年にマショナランドターフクラブ(Mashonaland Turf Club)が結成されています。
1882年に南アフリカジョッキークラブ(The Jockey Club of South Africa)がポートエリザベスで結成され、南アフリカでの競馬開催を統括する組織となりました。現在の南アフリカダービー(South African Derby)につながるレースは1885年にポートエリザベスで第一回が開催されました。南アフリカジョッキークラブは後にその本部をターフフォンテンに移し、2004年にNational Horseracing Authority of South Africaと改称しました。
19世紀前半の南アフリカではポニーなども競走に使われましたが、徐々にサラブレッドなどの競走馬主体となり、19世紀後半にはサラブレッド、アラブ、アングロアラブの競走に変化していきます。また、イギリスは南アフリカとほぼ並行してオーストラリアにも進出して盛んに競馬を行ったため、南アフリカからオーストラリアに競走馬が輸出されました。当時の南アフリカやオーストラリア、ニュージーランドにはジェネラルスタッドブックに遡ることのできない血統を持つものも多く、これらの馬の中で後代にファミリーを残したものがコロニアルファミリーと呼ばれる牝系の一群を成しています。

概要

現在南アフリカの競馬を管轄しているのは南アフリカ競馬統轄機構(NATIONAL HORSERACING AUTHORITY of Southern Africa)という組織です。南アフリカジョッキークラブが改称した組織で、その本部をヨハネスブルグのターフフォンテンにおいています。南アフリカ及びジンバブエの血統書を管理する機関でもあり、国際血統書委員会(International Stud Book Committee)が1982年に承認した最初の15機関のうちの1つに含まれています。この下に各地方競馬委員会(Central Provinces Racing Board、Kwazulu-Natal Racing Board、Eastern Cape Racing Board、Western Cape Racing Board)が組織されています。
また北に接するジンバブエに存在するボローデール(Borrowdale)競馬場もNATIONAL HORSERACING AUTHORITYの管轄下にあり、ジンバブエ支部(Zimbabwe Regional Office)が担当しています。このためジンバブエの重賞は南アフリカと同じ基準でパート1としての扱いを受けます。ジンバブエダービー(Zimbabwe Derby)と古馬のタンカード(Tankard)がG3というレベルです。
南アフリカには競馬場が10ヶ所あり、重賞開催は週末に行われますが、平場の開催は平日にも行われています。南アフリカの競馬で主となるのは芝コースですが、フラミンゴパーク(Flamingo Park)競馬場はダートコースのみであり、ヴァール(Vaal)競馬場は芝コースとダートコースの両方を持っています。南アフリカではダートコースはSandと呼称されています。重賞競走はそのほとんどが芝で行われ、ダートではヴァール競馬場のエメラルドカップ(Emerald Cup)がG2格で南アフリカ最大のダートレースとなっています。
南アフリカの競馬主催組織は再編の結果、2005年にゴールドサークル(Gold Circle)とフューメレラ(Phumelela)が設立されてまとまりました。この2社は共同で事務局(National Racing Bureau)を設置し、レースのエントリーなどを共通化しています。Gold Circleは西ケープ州(Western Cape)とクワズール・ナタール州(Kwazulu-Natal)を担当し、Phumelelaはハウテン州(Gauteng)、北ケープ州(Northern Cape)、東ケープ州(Eastern Cape)、フリーステイト州(Free State)を担当します。したがってケープタウンとダーバンがGold Circleの管轄となり、ヨハネスブルグ、キンバリー、ポートエリザベスはPhumelelaの管轄となります。
馬券発売は国立賭事局(National Gambling Board)が各州の賭事局(Regional Gambling Board)をまとめて統轄しています。トータリゼーターとブックメイカーによる馬券が認められています。トータリゼーターはPhumelelaとGold Circleの共用で、Phumelelaが運営しています。ブックメイカーとしてはベッティングワールド(Betting World)が設立され、南アフリカの42ヶ所で業務を行っています。
また、南アフリカではスタンダードブレッドによる繋駕競馬も行われており、こちらは南アフリカハーネスレーシング(Narness Racing Association of South Africa)によって管理されています。トロッターとペーサーによる競争が行われており、スウェーデンとの関係が特に深いようです。

競馬場

現在南アフリカサラブレッドによる競馬開催を行っている競馬場は10ヶ所です。古いデータを調べるともっと多く出てきますし、JAIRによる南アフリカ競馬の紹介では15の競馬場が存在するとなっていますが、これは古い情報です。かつては各個のクラブが競馬を運営していましたが、Gold CircleとPhumelelaの2つの組織に再編され、競馬場の閉鎖が行われています。ハウテン州のランジェスフォンテン(Randjesfontein)競馬場はトレーニングセンターとして利用され、ケープタウンにあったミルナートン(Milnerton)競馬場も一部を調教設備として利用しているほかは宅地として開発されました。現在残った競馬場は以下の10ヶ所となります。

Gold Circleが運営する競馬場

ケニルワース(Kenilworth)競馬場

西ケープ州ケープタウンにあり、南アフリカの主要な競馬場の一つです。開設は古く1833年に最初のレースが行われています。ケープタウンの中心街から8km、ケープタウン国際空港から12kmという立地です。
開催は12月と1月を中心とするハイシーズンの夏季開催と6月を中心とする冬季開催に分けられます。芝左回りの二つの周回コースを持ち、開催時期によって使い分けられています。
新コースは周回2800m、直線600mのコースで、主に夏季開催で使用されます。旧コースは周回2700m、直線450mのコースで、主に冬季開催で使用されます。またこれら二つの周回コースとは独立して1200mの直線コースも持っています。この直線コースは1200mのスタート直後200mとゴール手前200mが上り坂となる厳しいコースです。新コースは枠による有利不利がなくフェアなコースという評価を受けています。
ケープタウンの主要な競争はケニルワース競馬場で行われ、夏季開催ではケープギニー(Cape Guineas)、ケープフィリーズギニー(Cape Fillies Guineas)、ケープダービー(Cape Derby)、パドックステークス(Paddock S)、クイーンズプレート(Queens Plate)、J&Bメット(J&B Met)、マジョルカステークス(Majorca S)、ケープフライングチャンピオンシップ(Cape Flying Championship)といったG1を開催します。冬季開催ではG1の開催がなく、ウインターダービー(Winter Derby)などが開催されます。この冬季開催は裏開催的な位置づけになりますが、出世の遅れたケープ地区の3歳馬が頭角を現すための重要なレースでもあります。

ダーバンヴィル(Durbanville)競馬場

西ケープ州ケープタウンにある周回2200mの左回り芝コースです。ケープタウンの北部にあり中心市街から20kmの位置です。
直線が下り坂という特徴を持つため逃げ込みが決まりやすく、内枠有利とされる競馬場です。下級戦の開催が主となっており、重賞はG3ディアナS(Diana S)を開催するのみです。

グレイヴィル(Greyville)競馬場

クワズール・ナタール州ダーバンにある競馬場です。Royal Durban Golf Clubの外周に作られたコースでダーバン市の中心市街地に位置します。右回り2800mの芝コースで直線は500mです。コーナー付近からスタートする関係で1600mと1400mの距離では枠順の影響があります。1996年に照明設備を導入し、南アフリカで最初にナイトレースが開催された競馬場です。
ダーバンジュライ(Durban July)を開催する他、ゴールドカップ(Gold Cup)なども開催しており、クワズール・ナタール州の中心となる競馬場です。一部のG1開催がClairwoodからGreyvilleに移され、July開催とGold Cup開催の二つのフェスティバル開催を行うようになりました。

クレアウッド(Clairwood)競馬場

クワズール・ナタール州ダーバンにある競馬場です。旧ダーバン国際空港近郊4km、ダーバン市街から10kmの位置に存在します。ダーバン国際空港は現在閉鎖され、新たに供用されているキング・シャカ空港からは遠くなってしまいました。
周回2500mの左回り芝コースで、直線は600mです。また、ポケットを使用することで1200mの直線コースをとることができます。
ゴールドチャレンジ(Gold Challenge)とマーキュリースプリント(Mercury Sprint)をG1として開催しています。

スコッツヴィル(Scottsville)競馬場

クワズール・ナタール州の州都ピーターマリッツバーグにある競馬場です。ピーターマリッツバーグの市街地にある競馬場で、ダーバンからは約100km離れています。
右回り2300mの芝コースと1200mの直線コースを持ちます。周回コースの直線は550mです。決勝線が1コーナーにやや進入したところにあり、直線コースは強い癖を持ったコースとして知られています。グランドスタンドの裏にはゴールデンホースカジノ(Golden Horse Casino)が併設されています。
毎年5月にスプリントデイとして四つのスプリントG1を開催します。

Phumelelaが運営する競馬場

ターフフォンテン(Turffontein)競馬場

ハウテン州ヨハネスブルグの競馬場です。ヨハネスブルグの市街地にあり、南アフリカ競馬統括機構の本部が設置されています。
南アフリカ最大規模の開催を行う競馬場で、Phumelelaが所管するG1はすべてターフフォンテンで開催されています。右回りの芝コースで、スタンドサイド(Standside)コースとインサイド(Inside)コースの二種類を持ちます。Turffonteinも照明設備を整備しており、ナイトレースの開催が可能となっています。
スタンドサイドコースは周回2700mの外回りコースです。3コーナーから直線にかけて上り坂となる厳しいコースになっています。
インサイドコースは新設されたコースで周回2500mです。バックストレートをスタンドサイドコースと共有しています。
夏季開催のサマーカップ(Summer Cup)、秋季開催の南アフリカダービー(SA Derby)開催などを持ちます。

ヴァール(Vaal)競馬場

ハウテン州にある競馬場です。ヴァールトライアングルと呼ばれるエリアにあり、フェリーニヒングの近郊に位置しています。ヨハネスブルグからの距離は約60kmです。
芝コースとダートコースを持ち、ダートコースはSandと呼称されています。芝は右回り2900mのコースで直線が1000mあり、ポケットを使用すると1600mの直線コースを取ることができます。面白い設定ですが芝コースでの重賞開催は設定されていません。ダートコースは芝の内周に作られていますが、直線は1000mを確保しています。ダート重賞として、G2エメラルドカップ(Emerald Cup)、G3オーガストステークス(August S)を開催しています。

フェアヴュー(Fairview)競馬場

東ケープ州ポートエリザベスの競馬場です。ポートエリザベスの郊外に位置しています。
右回り2700mの芝コースで直線は800mです。1200mの直線コースを設定することもできます。重賞開催はG3チャンピオンジュブナイルカップ(Champion Juvenile Cup)があるだけです。

アーリントン(Arlington)競馬場

東ケープ州ポートエリザベスの競馬場です。ポートエリザベスの市街地にある競馬場です。
右回り2000mの芝コースで直線は600mです。ポケットを使用して直線1000mのコースを取ることが可能です。またバックストレートにもポケットを持ち、2000mはその奥からのスタートになります。重賞開催はG3イーストケープダービー(East Cape Derby)だけです。

フラミンゴパーク(Flamingo Park)競馬場

北ケープ州キンバリーの競馬場です。芝トラックを持たず、Sandと称される2000m右回りコースです。重賞開催はありません。地理的には西ケープのケープタウンや東ケープのポートエリザベスよりもハウテンのヨハネスブルグとの関係が深くなっています。

近隣国の競馬場

ボローデール(Borrowdale)競馬場

ジンバブエ共和国の首都ハラレの北東にある競馬場です。マショナランドターフクラブ(Mashonaland Turf Club)が運営しています。5月が開催のハイライトとなります。

シャンドマルス(Champ de Mars)競馬場

モーリシャス共和国の首都ポートルイスにある競馬場です。競馬場の歴史は古く、1810年にイギリスがモーリシャスを占領した後の1812年6月25日に最初の競馬開催が行われています。右回り1298mで幅員12〜14mという小さな競馬場で、直線は250mで上り坂になっています。モーリシャスターフクラブ(Mauritius Turf Club)が運営しています。競馬シーズンは3月から12月で毎週日曜日の開催となっています。