Asia Pattern Committee Ground Rulesを読んでみた

毎年恒例のニュージーランドのReport of the Graded Stakes Committee*1を読み始めたら、Asian Pattern Committeeとの絡みでNew Zealand Pattern Committeeに変わっていたりしたので、去年11月に出ていたGround Rules*2を今更ながら読んでみました。
大雑把に内容を紹介します。

Asian Pattern Committeeの構成メンバー

ARF加盟国で国際G1を開催している国。すなわち以下の7ヵ国。

この他のARF構成国は議長の同意を得て通常年2回のミーティングに出席することができるが、投票権は持たない。
そういえば南アフリカもARFの構成国でした。ってことは南アフリカの重賞もこのルールの影響を受けるのか。

国際重賞に適用するルール

  1. 産地による出走制限を設けないこと。
  2. レースの登録名称に固有部分(permanent element)をもつこと。(スポンサーの都合などでレース名の変更があっても変更しない部分が必要ということです。)
  3. 格付けがパターンレースレーティングに基づいた出走馬のレベルによって決定されること。
  4. パターンレースレーティングは3年間のレースレーティングの平均で求められる。レースが2度しか開催されていない場合は、2回分の平均として求めることが認められる。レースレーティングの算出にはWRSCで決定された上位4頭の公式レーティングが使用される。レースレーティングの計算には混合戦における牝馬のアローワンスを加えて行う。レースの中止があった場合は直近の3回分のレースレーティングからパターンレースレーティングを計算する。

重賞で要求されるレート

重賞の標準レートは以下のように決められている。牝馬限定戦若しくは2歳限定戦では標準レートを5低くし、2歳牝馬限定戦では標準レートを10低くする。

格  通常 牝馬限定戦 2歳限定戦 2歳牝馬限定戦
G1  115   110     110    105
G2  110   105     105    100
G3  105   100     100     95

パターンレースにおける変更の定義

  • パターンレースの格付け変更
  • 距離(1600m以下では100m、1600m以上では200mをそれぞれ超える距離)、馬齢・性別条件、斤量設定、開催時期、開催競馬場又は開催トラック(芝、ダート、オールウェザー)の変更
  • 固有名称の変更
  • パターンレースの追加
  • パターンレースの削除

G1に関する変更は委員会の多数によって承認されなければならない。

格付けの変更

昇格は委員会の多数決で決定されるが、提案国は投票権を持たない。賛否同数の場合は否決と扱う。G1の場合は賛成が反対を2票上回らなければならない。
G1の標準レートが115で、3年間続けてこの数値を5以上下回ると警告が発出され、4年目も5以上下回った場合は降格が審議される。多数決の結果、賛成が反対を2票上回ると降格となる。
G2及びG3は2年続けて標準レートを3以上下回ると警告となり、3年続くと自動的に降格となる。

Australian Racing Boardのニュースリリースより

9/7に行われた会合ではオーストラリアの3つのレースがG1に昇格しました。ARBニュースリリース*3は見つかりましたが、APCとかではレポートが見つからないので、オーストラリア以外の案件については不明です。

  • Memsie S (Caulfield): 過去3シーズンの勝ち馬にSincero、King's Rose、So You ThinkとG1馬が揃っている。
  • A J Moir S (Moonee Valley): Schweppes Sとして行われていたレース。過去3年でBlack Caviar(二回)とApache Catが勝っている。
  • Canterbury S (Rosehill): 過去3年の勝ち馬はMore Joynous(二回)とHot Danish。

オーストラリアのG2でMemsie Sは最も高いパターンレースレーティングを獲得しており、Moir Sはそれに次ぐレートを獲得しています。Canterbury Sは昨シーズンのレートが高く、G1のDoomben 10000を上回りました。
この3レースがG1に昇格した結果、オーストラリアのG1開催数は71レースとなっています。
更に12月に予定されている会合ではMakybe Diva S、Apollo S、Schillaci Sの昇格が議論される予定だそうです。

日本で適用するとどうなるか見てみましょう

G1の降格条件はかなりヌルいように見えますので、日本のG1/JPN1にあてはめてみた場合どうなるか見てみましょう。2009年から2011年の3年間を対象にパターンレースレーティングを見てみました。レートの数値はJRAが公開しているものをそのまま使用しますが、JRAがデータファイルとして出しているレースレートは混合戦での牝馬のアローワンス補正を入れず計算しているようです。たとえばウオッカは2009年の安田記念で120を獲得しましたが、安田記念のレースレート計算上はセックスアローワンスを加算するのがARFのルールです。セックスアローワンスを5ポンドと仮定すると、125となるわけですが、ウオッカ安田記念のレースレートを見るとウオッカのレートを120のまま計算しています。ということで牝馬が4着までに入った混合戦のレートは一頭入るごとに1.25低く算出されています。このためブエナビスタとかがあちこちのレートを下げていますね。
レースレートが高い順に、混合戦、ダート戦、牝馬戦、2歳戦な順に。

ジャパンカップ 平均RR 119

国内G1でトップはジャパンカップでした。これでも毎年ウオッカブエナビスタが入って数字を下げているのですよね。勝ちレートはウオッカ118、ブエナビスタ121、ブエナビスタ120というレート。過去3年間牝馬が1位入線していてもこの数字です。また、オウケンブルースリ121、ローズキングダム120、トーセンジョーダン122と2着馬でも120は超えるレートが与えられています。

有馬記念 平均RR 118.7

ジャパンカップにほぼ匹敵する数値です。こちらは勝ち馬がドリームジャーニー122、ヴィクトワールピサ121、オルフェーヴル123というレートを獲得しており、2011年には3着トゥザグローリーでも120のレートを獲得してRRが120を超えました。基本的にジャパンカップからスライドしてくるのだから当然の結果でしょうね。

宝塚記念 平均RR 117.8

ドリームジャーニー121、ナカヤマフェスタ120、アーネストリー121と勝ち馬のレートが120を突破し、4着まで大きく下がらないので高レート。レースレートを計算する上では4着馬まで大きくレートが下がらないということが重要になります。2010年と2011年はブエナビスタが入ってやや低く算出されており、アローワンス補正を考慮すれば毎年RRが118を超える優秀なレースと言えます。集計の都合上外していますが、今年は勝ったオルフェーヴルが125で、RRは119.5となっています。

天皇賞秋 平均RR 117.8

秋の天皇賞も勝てばレート120超えが確定します。カンパニー121、ブエナビスタ121、トーセンジョーダン122が勝ちレートでした。2011年はダークシャドウペルーサも120を超え、ブエナビスタに115と張り切ってRRは119.5となっています。

安田記念 平均RR 116.5

ウオッカが120を出した2009年にはRRが119を記録して、平均を押し上げました。基本的に115前後の数字に落ち着く模様。

天皇賞春 平均RR 114.8

勝ち馬にそれなりのレートが与えられるのと、長距離戦で着差補正が少ないのか4着までは安定してレート110を超えています。RRとして115を超えたのは2009年と2011年。

マイルチャンピオンシップ 平均RR114.4

毎年サプレザがRRを引き下げてくれました。サプレザのアローワンスを考慮すれば、いずれもRR115を超えます。勝ちレートがだいたい118で、RRとしても115は超えるレースです。そういう点では安田記念との差はありませんね。

日本ダービー 平均RR 113.8

勝ち馬の基本レートが118で、オルフェーヴルは120を獲得。接戦の年はレートが高くなり、2010年が115.5、今年は116.75を獲得。今年は4着でもワールドエースのレートが116となっています。

菊花賞 平均RR 113.6

ダービーをわずかに下回りましたが、長距離で回避するダービー上位馬が出ることを考えると十分な数字でしょう。去年のオルフェーヴルは118を獲得しましたが、他は勝ち馬に115を付けるのを基準として、RRはほとんど動きません。

高松宮記念 平均RR 112.1

毎年勝ち馬のレートを115とするのが基本で、4着馬まで115から110の範囲に収まっており、RRは安定。今年のカレンチャンは111を獲得しアローワンス5ポンドを加えると116に相当します。

皐月賞 平均RR 112.1

勝ち馬のレートが116で揃い、4着まで安定したレートを獲得。毎年RR110のラインは超えています。

スプリンターズステークス 平均RR 111.7

過去3年のRRは112付近で安定しています。2011年はカレンチャンエーシンヴァーゴウのアローワンスを受けますが、それでもRRは111でした。高松宮記念との差はほとんどありません。

NHKマイルカップ 平均RR 109.3

皐月賞ほど安定したレートを獲得していません。2009年のRRが105.75と低く、平均を下げています。それ以外では皐月賞から少し低いのが基本。

ジャパンカップダート 平均RR 112.5

フェブラリーステークスとはほとんど差がありません。ダートはJRA重賞と交流重賞の差が如実に出てしまいます。

フェブラリーステークス 平均RR 112.5

2010年を除いて4着馬までレート110を獲得して安定したRRを示します。2009年はサクセスブロッケンカジノドライヴカネヒキリエスポワールシチーという構成でRR116.5を記録しています。

東京大賞典 平均RR 112.4

レーティング上、フェブラリーステークスジャパンカップダート東京大賞典の3レースはほぼ変わらない評価を与えられていると言えます。他の交流重賞とは違い、4着馬のレートが高止まりしているのが特徴です。

かしわ記念 平均RR 110.25

エスポワールシチーフリオーソがレートを稼いでそれなりの数値を出しています。2011年はRRが109.75ですが、2着ラヴェリータのアローワンスがあります。ただし今年は4着ランフォルセが94と低調でRR106.25という値になっています。

川崎記念 平均RR 109.3

勝ち馬はカネヒキリ116、ヴァーミリアン115、フリオーソ115と安定しているが、4着まで見るとばらつきがでます。2011年は4着クリュギストが94しかなくRR103.75とかなり低調。2012年はスマートファルコンが118をたたき出しましたが、2着以下の数値が低くRRは108にとどまりました。

マイルチャンピオンシップ南部杯 平均RR 108.7

基本的に高くないのですが、2011年はトランセンドダノンカモンシルクフォーチュンエスポワールシチーでRR114を獲得しています。3年に1回こういうことをすれば警告の対象にすら該当しませんので、APCのG1降格ルールは温いと思います。ちなみに2009年、2010年ともに106止まり。勝ち馬のレートは低くないのですが、どうしても交流重賞は4着まで見るとレートが低くなりますね。

帝王賞 平均RR 108.5

下位がRRを引き下げているのが特徴。勝ち馬自体はヴァーミリアン117、フリオーソ115、スマートファルコン118、ゴルトブリッツ115とそこまで見劣りしませんが、2011年のようにボンネビルレコード96などがRRの計算に含まれるようになると厳しくなります。

JBCクラシック 平均RR107.7

過去3年で110を超えたのは2009年のみ。2011年はスマートファルコントランセンドがともに118と高レートを記録したにもかかわらず、グランシュバリエの93に引きずられてRRは109.75でした。

ジャパンダートダービー 平均RR 106.2

勝ち馬のレートが110に届くかどうかというレベルで非常に厳しい。

JBCスプリント 平均RR 105.5

G1としてみるには厳しい数字ですが、2011年は110.5を獲得しています。2010年がひどく、勝ったサマーウインドが114なのは良いとして、ナイキマドリード102、ミリオンディスク98、スーニ90という有様で、RRは101です。これはG3の標準レートすら下回ります。持ち回り開催で条件が毎年変わる開催形式はAPCルールでの扱いが難しくなるでしょうね。

エリザベス女王杯 平均RR 110.6

2009年の酷いレースがRR105.5で足を引っ張りますが、近2年は数字を持っているスノーフェアリーが勝って118と117を基準にレートが振られて好結果となっています。2011年は114.25と牝馬戦としては素晴らしい数字です。

ヴィクトリアマイル 平均RR 110.25

2009年はウオッカが119をたたき出したが、2着以下が低く107.5にとどまっています。2010年と2011年はRR111.25、112と優秀。ブエナビスタで113を付けられたのが効いています。今年は勝ったホエールキャプチャが112止まりとやや低く109.75でした。

秋華賞 平均RR 109.4

3歳牝馬限定戦は時期が進むにつれてRRが上がるという真っ当なかたちです。去年がやや低くて107.5ですが、2009年と2010年はどちらも110を超えています。

オークス 平均RR 108.75

基本的に桜花賞よりは上の数字が出ます。今年はジェンティルドンナが強すぎて着差の開いた2着以下の数字が出ず、RR107と低くなりました。

桜花賞 平均RR 107.6

3歳牝馬限定とはいえ勝ち馬がレート110程度でやや低い。着差が広がらず4着までレート的に大差がつかないのが特徴。毎年RR107を超える程度に落ち着いています。

朝日杯フューチュリティステークス 平均RR 110.3

この3年は勝ち馬のレートが114か113となっており、それ以前より高めに付けられるようになっています。

阪神ジュベナイルフィリーズ 平均RR 106.1

毎年のレートがほぼぶれず、2歳牝馬限定でこの数字は十分です。

全日本2歳優駿 平均RR 102

条件的に仕方ない面はありますが、2009年はRRが100という水準です。

まとめると

ジャパンカップ有馬記念宝塚記念天皇賞秋のレートが少し抜けて高いという予想通りの結果になりました。安田記念マイルチャンピオンシップ高松宮記念スプリンターズステークスの間でそれぞれ実質的なレートの差はありません。
ダート戦はフェブラリーステークスジャパンカップダート東京大賞典のレートがほぼ並び、それ以外のレースはちょっと劣るというのがレート的な評価になります。原因は3着、4着のレートが低くつけられることで、勝ち馬自体のレートにそこまでの差はありません。ほとんど同じ馬が勝っていますしね。
仮に現在JPNでグレード表記をしているレースにまでAPCルールを当てはめた場合、ジャパンダートダービーは4年続けて110を下回っていますので、降格が審議される対象となります。全日本2歳優駿も必要なRR105に達しないので降格審議の対象に該当します。芝が主流となる日本でダートの世代限定戦という条件ですから仕方の内面はありますね。そもそも芝でもダート(オールウェザー)でもG1を開催するような国がAPCでは日本とUAEしかありませんし、UAEのはアレだしってことで比較対象になりません。
JBCスプリントJBCクラシックも数値は低いのですが、過去3年で1回110を超えているレースがあるため、警告を免れます。尤もAPCルールはJBCのような毎年開催条件が変わる持ち回り開催を想定していないルールになっています。APCを構成する国で持ち回り開催のシステムを持っているところがないので仕方ありませんね。2010年の船橋開催はスプリントがRR101、クラシックがRR102.5といった有様でした。
といったあたりで、交流重賞クラスにまで適用するといろいろまずいかなと思ったり。考慮されるべき特殊な事情っぽくもありますが。JPN-1の扱いどうするのと思いましたが、どうにもなりませんな。

日本以外

香港にはHKG1があるし、シンガポールもSIN-G1とかやってるので、日本だけがそういうことをやっているというわけではありません。つか、香港のレートも調べたかったのだけど、HKJCのサイトで軽く探して見つからなかったので諦めました。
ニュージーランドは今年の重賞レポートからRRを記載しています。最低レートを下回ったら1st Warningと見なして良い感じですね。2nd Warningが3年連続の警告に該当するといったところ。もともとAPCルールに近いシステムだったので、特に何か変化があるわけではなさそうです。
南アフリカのレートはかなり気になるけど、見たことがないので知らないです。