Russian Horse Racing

ロシアの競馬には以前から興味があったのですが、とっかかりが無くて誰かロシア競馬の解説やってくれねぇかなあと思うくらいでした。
先週Sid Fernand氏のブログRussian 2000 Guineasの記事が掲載され、そこからロシアの競馬サイトにたどり着けたのでざっと見てみました。
Ippodrom.Ru
主催者側の公式なサイトではなくて、当地の競馬記者の方が作成されているサイトのようですが、英語でレース結果を引けるというのがポイント高く。かつての自動翻訳はさっぱり分からない英文を作ってくれたものですが、今はそんなこともないようで、露→英の自動翻訳でも十分な精度を持ってるおり、いけるかなと。これまでロシアの競馬に取っつきにくかったのはキリル文字読めんってのも大きかったわけで、それを解消できそうなので何とかなりそうですかねえ。ラテン文字は文字として頭に残せるんだけど、キリル文字は絵としてしか頭に残らないレベルなんで。
まー、フランスギャロなんかもサイトリニューアル前はフランス語だけで雰囲気捉えつつ見てましたし、英語で読めるならそのとき以上か。
ニュースアーカイブを見てると中国の国際ホースショウといったタイトルの記事もあったりでなかなかよろしげ。日本の馬産事情に関する記事もあったりで、何か凄い。
そこでまず2009年のG1レースリストを作ってみた。何となく。

Group 1

Grand Summer S Pyatigorsk Hippodrome 3yo colts&fillies 1600m
Russian 2000 Guineas Central Moscow Hippodrome 3yo colts&filles 1600m
Pyatigorsk Oaks S Pyatigorsk Hippodrome 3yo fillies 2400m
President of the Russian Federation S Central Moscow Hippodrome 4yo+ 2400m
Pyatigorsk Derby Pyatigorsk Hippodrome 3yo colts&fillies 2400m
Russian Ministry of Agriculture S Pyatigorsk Hippodrome 4yo+ no geldings 2400m
Minister of Agriculture and Food of Republic Tatarstan S Kazan International Equestrian Complex 4yo+ 2400m
Tatarstan Derby Kazan International Equestrian Complex 3yo 2400m
N.M. Efros Memorial S Central Moscow Hippodrome 2yo colts&fillies 1600m
Russian Oaks Central Moscow Hippodrome 3yo fillies 2400m
Russian Minister of Agriculture S Central Moscow Hippodrome 4yo no geldings 2400m
Russian Derby Central Moscow Hippodrome 3yo colts&fillies 2400m
S.M. Budyonny S (Russian St. Leger) Pyatigorsk Hippodrome 3yo+ no geldings 2800m
Tatarstan President S Kazan International Equestrian Complex 3yo+ 2400m
Winter Favorite S Central Moscow Hippodrome 2yo colts 1600m
N.N. Nasibov Cup Central Moscow Hippodrome 3yo+ 2400m
First Crown S Pyatigorsk Hippodrome 2yo colts&fillies 1600m
Champions Cup Pyatigorsk Hippodrome 3yo+ no geldings 2400m
Autumn S Pyatigorsk Hippodrome 2yo colts&fillies 1600m

ということでG1を開催しているのは3ヵ所。首都モスクワ、北カフカスピャチゴルスクタタールスタン共和国の首都カザン。G1の数からすればモスクワとピャチゴルスクが中心で、カザンでもやっている程度かな。
モスクワとピャチゴルスクの気候の違いからか5月末にSummer Sがあったり、Winter SのあとにAutumn Sがあったりで季節感がぶち壊されそうですw
目に付くところといえば距離の中心が2400mにあり、セン馬の出走を認めていないレースが多い事。2000mでG1を開催していないのは独特でしょう。ドイツですら2000mのG1はあるんで。どのコースもトラックはダートなんですかね。
数字を見てもルーブルの価値が頭に浮かぶ事はないですし、ロシア国内の物価と比べてどの程度なのかはさっぱり分かりませんが、賞金がずば抜けて高いのが700万ルーブルのPresident of the Russian Federation S。ロシア連邦大統領杯ってところで当然か。以前はPresident's Cupといっていたレースでしょうね。このレースはどうやら持ち回り開催で、レース当日は旧ソ連諸国から出走馬が集まる国際フェスティバルになっている様子。そんな話を昔Racing Postで読んだなということを思い出しました。2007年の記事だとレース当日はロシア、モルドバアゼルバイジャンアルメニアに加えてベネズエラの首脳が集まったようです。チャベスがいるのはまあ政治的な意図が見え透いてますね。反面モルドバアゼルバイジャンはロシアと距離を置こうとする方ですが。また、2008年になりますが、薬物違反に関する記事があり、1日の開催で4頭がアウト。内訳はサラブレッド2頭にアハルテケ2頭で、アハルテケの内1頭がトルクメニスタン調教、サラブレッドの内1頭がアゼルバイジャン調教となっています。検出されたのはコデインとその代謝物、フルニキシンが2頭、オキシフェンブタゾンとその代謝物。コデインは麻酔か鎮咳になりますが、こういうところだと局所麻酔効果を期待して使ったかな。フルニキシンはNSAIDsの一種で、消炎鎮痛剤です。動物用だけで人間用はないはず。オキシフェンブタゾンも鎮痛剤で、これはピリン系。副作用が強いので人間には使われなくなっています。ビュートとして知られるフェニルブタゾンに似た構造の化合物です。1日の開催で4頭は多いですよね。しかも鎮痛剤の使用が3例ありますし。また、これメインレースのロシア連邦大統領杯の2着馬が引っかかってるんですよね。そういった方面はまだまだなのかなと思わされます。
賞金でその次がTatarstan President Sの300万ルーブルタタールスタン共和国大統領杯ですね。この他N.N. Nasibov Cupが150万ルーブル、Russian Derbyが100万ルーブルとなっています。基本的に賞金が高いのはモスクワ。カザンとピャチゴルスクは同程度の賞金レベル。
G2とか見てみたら数が多くて心が折れたのでパス。
見たところ各競馬場でGuineasやDerbyといったレースが見られ、2000 GuineasにGrand Summer S、1000 GuineasにAnalogichinya Sというレース名を与えているのが目立ちます。

Breeding Statistics

ロシアはサラブレッドよりトロッターの生産が多く、生産頭数では2倍に達しています。純血アラブの生産もあり、こちらはサラブレッドの半分程度。レースとなるとその差は更に大きく、繋駕競走が平地競競走の4倍ほど開催されていました。この繋駕競走の方が多いのは欧州の大陸諸国では一般的です。この面では英愛がやや特殊なんですね。
これが去年IFHAがサイト上で公開しているデータをまとめた際のもの。当時の最新データは2003年になっていましたが、その後2008年分が公開されたので見てみると、サラブレッド生産頭数が481頭となるのに対してトロッターが1841頭、純血アラブが179頭となっています。
サラブレッドの生産頭数は年度によってばらつきがありますが、繁殖牝馬の数からすれば500頭に満たないのは少なすぎると思います。需要が国外生産馬シフトしている原因なのか結果なのかどちらにせよ、平地主要競走でロシア産馬をあまり見かけない事情はこのあたりにありそうです。
トロッターは毎年生産が増えています。2003年の数字と比べると種牡馬繁殖牝馬ともに大きく数字を増やしていますから、順調に生産規模を拡大していることになるのでしょう。
その反面レース開催数は平地も繋駕も減少しているのがよく分かりません。ジャンプレースはレース数が一桁にまで減っています。
また、ロシア語で詳細が分からないのですが、アハルテケの生産、競走も各地で行われているようです。

Race Tracks

コースはIFHAのデータによると36あります。
一方ロシアでは2009年2月にNational Horsebreeding UnionからコースのClassificationが発表されており、First CategoryとしてCentral Moscow Hippodrome、Pyatigorsk Hippodrome、Kazan International Equestrian Complexの3場が、Second CategoryとしてKrasnodar Hippodrome、Nalchik Hippodrome、Rostov Hippodrome、Akbuzat Hippodromeの4場が、Third CategoryとしてSamara Hippodromeが指定されています。通常、平地G1を開催するのが、First Categoryの3場。Second CategoryはG2までという形になっているように見えます。
なお、最高額賞金のロシア連邦大統領杯は持ち回り開催になっているようで2007年はRostov-on-Don Hippodrome、2008年はPyatigorsk Hippodrome、2009年はCentral Moscow Hippodrome、2010年はRostov-on-Don Hippodromeで開催されています。
Samara Hippodromeでは重賞開催がありません。そもそもSamaraでのレース結果が一つも出てこず、平地競馬を開催していない気がします。一応公式サイトらしきものを拾ったのですが、ほとんどNot Foundになります。ルートのインデックスが見える素敵仕様なので見たら、トップページ以外にはGalleryと称するページしか存在しておらず、さっぱり。写真を見る限り馬術競技をやっているようなんですが。
そしてこれ以外のレーストラックに関しては現在should be considered unofficialという扱いになっているようです。
ロシアは気候的にほぼ冷帯に分類されるので冬期に平地競馬は開催されていません。5月から本格化して10月でシーズンが終わってしまいます。

Central Moscow Hippodrome

中央連邦管区モスクワ市。
1834年に創設され、現在の形になったのは1951年とのこと。モスクワに7ヶ所ある競馬場の中で最大。1800mのダートトラック。平地競馬の開催は5月-9月。
ソヴィエト連邦崩壊からの混乱期には閉鎖されていました。2000年から競馬開催を再開しています。古いソヴィエト連邦時代のレース結果を掘るとモスクワの芝というレース条件が見受けられるのですが、つかAnilinって芝の活躍馬だよな的な話なんですが、web上で検索して目に付くのはダートトラックしかありません。長い閉鎖期間があったので芝を止めてダートにしてしまったということなんですかねえ。

Kazan International Equestrian Complex

沿ヴォルガ連邦管区タタールスタン共和国カザン市。
Complexと付く通り複合的な施設で種牡馬がいたり、乗馬クラブであったりもするらしい。タタールスタン共和国大統領賞に高額賞金を出しているのはロシア連邦への張り合いっぽく見える。
純血アラブやアハルテケのレース、トロットレースも盛んに開催しています。
ジュチ・ウルス後継政権の一つカザン・ハン国の故地。

Pyatigorsk Hippodrome

カフカス連邦管区スタヴロポリ地方ピャチゴルスク市。
2008年に全面改修され、ロシアで初めてとなる合成馬場トラックが導入されました。Fiber Sandを使用しています。欧州のスタンダードなトラックを目指し、電子計時やデジタルでの決勝写真、レース映像のシステムを導入していると。改修前は高速馬場として知られ、ダート2000mのレコードは2分を切っていました。ソヴィエト連邦の崩壊とその後の混乱期にモスクワに替わって主要なレースを開催していたようですが、現在そのほとんどはモスクワに戻っています。
スタヴロポリ地方はロシアにおける馬産地の一つになっている模様。しかし北カフカスはロシアの火薬庫になっており、治安は悪い。今年カバルダ・バルカル共和国のナリチク競馬場で爆弾テロが発生したばかり。スタヴロポリ地方でも爆弾テロが続発しています。
今年南部連邦管区から分離する形で北カフカス連邦管区が成立し、その行政機関はピャチゴルスク市におかれています。牧畜主体の農業、穀物生産地となっています。

Rostov-on-Don Hippodrome

南部連邦管区ロストフ州ロストフ・ナ・ドヌ市。
ロストフ市には南部連邦管区の行政機関が置かれています。ドン川河口付近に位置する都市で、要塞で有名なアレ。
Second Categoryに分類されていますが、President Of The Russian Federation Sを2度開催していることが確認できるので、序列4位程度のイメージを持って良いのかなと思います。まーロストフは大都市ですし。

Nal'chik Hippodrome

カフカス連邦管区カバルダ・バルカル共和国ナリチク市。
ナリチクはカバルダ・バルカル共和国の首都。
今年のメーデー開催で時限爆弾を使用したテロが発生しています。インタファクス通信によると貴賓席の屋根に仕掛けられた爆弾が爆発し、一般のファン13人が負傷し、その後1人が死亡。ニュースソースによって被害者の人数が違うのが何とも言えない。

Krasnodar Hippodrome

南部連邦管区クラスノダール地方クラスノダール市。
クラスノダール市は冬季オリンピック開催地となるソチを含むクラスノダール地方の中心都市。黒海アゾフ海に面した地方です。ロシアとしては温暖な気候で農業が盛ん。ロシア産紅茶の産地がこのあたり。要するにグルジアに接しているわけではありますが。

Akbuzat Hippodrome

沿ヴォルガ連邦管区バシコルトスタン共和国ウファ市。
ウファ市はバシコルトスタン共和国の首都。バシコルトスタン共和国ロシア連邦を構成する共和国の中で最大の人口を持ちます。あまり差がなく2位になっているのがタタールスタン共和国
Rudolf Nureyevはウファで育ったようです。

Samara Hippodrome

沿ヴォルガ連邦管区サマラ州サマラ市。
サマラはヴォルガ川が大きく東に蛇行した位置にあり、タタールスタン共和国の南。
Third Categoryに入っているのはこのサマラだけなので何か他の競馬場とは違うところがあるのでしょう。公式サイトっぽいのを見つけられたのはここだけなんですが、それが前述の状態なのでどうしようもありません。
カザンにしろウファにしろロシア連邦を構成する共和国の首都で、どちらも人口100万人を擁する大都市です。タタールスタン共和国バシコルトスタン共和国ともにロシア国内の石油産地として知られ、その他地下資源も豊富に持ち、比較的安定した地域になっています。これらとモスクワ、ロストフ・ナ・ドヌ、サマラは大きな人口を抱えた都市です。
逆にピャチゴルスクなんかは人口を見えると街の規模は大きくなく、馬産地の競馬というものかなと。クラスノダールもそこそこの人口を抱えているけど多分そんな感じ。気候は一番ここが恵まれてるんじゃないかなあ。ナリチクはピャチゴルスクに近いのでこれも同じかなと。
ちなみにRacing Postのレース結果検索で競馬場を指定する際に候補に出てくるのはMoscow、Kazan、Pyatigorsk、Krasnodar、Nalchikです。ロシアのレースをフォローしているというのではなく、レーポの観測範囲に遠征してきたときに戦績を補完するからっぽく。