イツワリノスクイテ

元ネタはBC初日に掲載されたLA Timesのこのコラム。
Artificial tracks provided false hopes -- latimes.com
BCの初日にRSS読んだらいきなりこの記事タイトルは吹く。
気分優先で適当に訳してみる。正確性には期待しないでください。超訳になっている部分はかなりあると思う。

合成馬場が競走馬の怪我を減らすという見解について同意は得られていない。そしてカリフォルニアのメイントラックをダートに戻すべきなのかどうかも。
死は痛ましいが競馬とは切り離すことのできないものでもある。しかしカリフォルニアでは医学的見地からこの問題を他の様々な問題より遙かに重要視していた。
2006年5月にカリフォルニア州競馬委員会(CHRB)は公正で安全な競走のためにはダートトラックに問題があると結論を下した。そして2007年の終わりまでにサラブレッド用の競馬場はダートより安全と信じられていた合成馬場を導入するよう指示した。
それから3年が経過した。Del Marだけでも26頭が落命している。そのうち19頭が2006年中の死亡であった。また2007年7月から2008年7月末までの期間でSanta Anitaで31頭、Hollywoodで38頭が合成馬場上で予後不良の診断が下る怪我を負っている。
この合成馬場という実験を継続するか議論が残っている。カリフォルニア州競馬委員会は態度を軟化させ、競馬場がダートトラックに戻すことも許容する見込みだ。しかし既に各競馬場は合成馬場を導入するために4000万ドルもの費用を注ぎ込んでいる。この上更にダートに戻すだけの資金をどうやって調達するのだろう。競馬産業は既にもがき苦しんでいるというのに。
統計によってはレース中の致命傷の発生を抑制することが示されているにも関わらず、馬主や調教師たちの間で合成馬場に変更することがサラブレッドの死を防ぐことに効果があるという同意は得られていない。医学的な研究では軟組織の怪我が増加することが示されている。付け加えると今年の夏のDel Marでは例年以上に調教中に致命的な怪我が発生している。
更に議論の種は尽きない。今年最も有名になった3歳の牝馬Rachel AlexandraはBreeders' Cupに出走しなかった。オーナーのJess Jacksonに言わせればプラスティックの上で走らせるつもりはないということになる。
合成馬場とは砂とゴム、合成繊維を混ぜたものであり、素材のクッションと結びつきをよくするためにワックスか高分子からなる結合剤を使用している。
ダートから合成馬場への変更を推進したCHRBのRichard Shapiro前議長は「今ならばあの指示を推し進めることはしなかっただろう。失望しているかって?全くその通りだよ」と語る。
合成馬場は期待を裏切った。その結果を見ていこう。
・何よりメンテナンスフリーではなかった。
・合成馬場を走る馬には後脚の怪我がダートを走る馬に比べて明らかに尋常でなく増えている。
東海岸の馬がカリフォルニアに遠征して合成馬場でレースをすることで縮小しつつある競馬人口を解決するという予測は外れた。
・出走馬数は少なくなり、投じられる賭け金も減少していった。
「銃規制について議論するようなものだ。みんな冷静な討議なんてできっこない。賛成か反対かどちらかしかないんだ。合成馬場には良い側面も悪い側面もある」CHRBのEquine Medical DirectorであるDr. Rick Arthurの言である。ArthurはCHRBが2004年1月から2009年9月まで統計したところ合成馬場はダートトラックに比べてレース中の致命的な怪我を40%減少させていること、一方で調教中はこれと相関した結果が出ていないことを示し、分析するのは困難と語っている。
合成馬場が天候の変化に即座に影響されることには驚かされる。気温と湿度は合成馬場の素材に影響を与え、それはオーナー、騎手、ハンディキャッパー、メンテナンスクルーたちに次に何が起こるのか分からないと不満を抱かせる。
「まだ分からない部分が残されている」Del Marの前副代表Craig Fravelが言う。
状況をさらに困難なものにしているのは南カリフォルニアの3つのトラックに、それぞれ異なった素材が使用されていることである。これでは基礎となる情報が共有できない。
評論家は合成馬場は安全性の面で明確な利点を持たなかったと言い、37日間に渡るDel Marの夏開催ではポリトラック上で12頭が怪我のため安楽死処置を受け、そのうち8件は朝の調教中に起きていることを証拠として示す。
昨年のDel Mar開催は43日間に渡ったが、安楽死処置を受けたのは8頭であり、2007年には6頭であった。今年のように突然安楽死処置を受ける重篤なケースが増えるのはダートトラックの時代にも起こっていたことである。これらはホースマンを混迷させる。合成馬場は、Kentucky Equine Reviewにおいて示された2004年から2007年までで1000出走頭数あたり3.09頭が致命的な怪我を負う事態の解決を目的に導入されたものだからである。
各競馬場はまた巨額の資金を投じてダートトラックに戻すだけの財政的状況にない。
Santa Anitaと北カリフォルニアのGolden Gate Fieldsを所有するMagna Entertainmentは破産手続きを申請している。Hollywood Parkには解体して住宅地にする計画がある。
今年のOak Tree開催では7頭が安楽死処置を受け、その3頭は芝、3頭はPro-Ride、残る1頭がゲートでの怪我によっている。調教中に安楽死処置を受けるほどの怪我を負った馬はいない。
Oak Tree Racingの副代表Sherwood Chillingworthによれば、昨年のBreeders' Cupでは156頭が出走し、大きな怪我を負った馬は出ていない。
昨年の7月にSanta Anitaは1月のCushion Trackでの開催で明らかとなり、調教師から不満が出た排水問題を解決するためにPolymer-Binderを使用するPro-Rideへと置き換えている。
CHRBのPostmortem Examination Programではカリフォルニア州の競馬場で死亡した全ての競走馬をカリフォルニア大学デービス校に送って検死を行っている。すでにこの研究から最初に報告された結果として、合成馬場で走る競走馬はダートトラックで走る競走馬に比べて後脚に怪我を負うケースが多いことが示された。
2008年の事前統計では合成馬場で死亡した111頭の内19頭が後脚の負傷を原因としていた。一方ダートでは65頭でたった1頭しか該当していない。2008年にカリフォルニアでは種を問わず合計351頭の馬が安楽死処置を受けている。
UC Davis校で研究を監督するDr. Hailu Kindeは競走馬にとって合成馬場がダートトラックに比して安全かどうかは分からないと語る。「この結果からは何も言えません。私たちは更に馬場に関する情報を追加して分析しなければならないでしょう」
調教師Darrell Viennaは語る。「合成馬場を導入する指示を決めたときは皆が正しい意図だと信じていた。3年前の同意は希望だった。だが、これまでの経験は、それが間違っていたか、期待しすぎたか、失敗だったかいずれかであることを示している」

記事内で数字の整合性が怪しいのですがどういうことでしょう。レース中だけのカウントかレースと調教を合わせたカウントかという基準が統一されていないのかなとは思いますが。一応明記していないところで芝トラック上でのケースは含まれていないはずですけど。
前後の話題のつながりが変なところがあるのですが、元の記事がそんな風なので仕方ありません。唐突にRachel Alexandraとか出てくるくだりは、はっきり書かないけど分かってるだろ的なものを感じます。この記事が掲載されたのはBC初日でした。
結局、安全性について従前のダートと比較してはっきりとしたメリットが得られないならば積極的に導入していく理由はなくなるのではないかなと思われます。更に特定の怪我を増やしているというのではなおさら。昨年のBCでメイントラックのレースに遠征してきた陣営からは遠征した理由の一つにオールウェザーではキックバックが発生しないからということが挙げられていましたし、また結果としてそれが欧州馬の瞬発力が活きる原因だったのだろうとは考えていましたが、同時に後脚の怪我が増えているのはキックバックが発生しないことで力の逃げ場がなくなっているからなのかなと考えてみたり。トラックによる違い、すなわち素材による違いまで見られているかは不明。データとしてはあるでしょうけど、そこまで発表してしまうといろいろ問題が出そうではありますよね。
記事中で合成馬場は気温や湿度の影響を顕著に受けると出てるのも気になるところです。ワックスなど使っていればそれは当然と思われますし、Pro-Rideで使用するPolymer-Binderも特段例外扱いされていないということは似た傾向を示すのでしょう。Del Marのように夏の短期間だけの開催であれば、天候の影響は掴みやすいのではないかと考えますが、それでも馬場が一年前と全く変わってしまう有様でした。重篤な怪我を負う馬が突然増えるというのは、この馬場の変化がときとして危険なトラックを現出させてしまうからなのでしょう。それはデータを蓄積していけばやがて回避できるのかも知れませんが、記事中にもあるように南カリフォルニアの3つの競馬場はそれぞれ異なる素材を使用していて、データを共用しにくいと。また、Polytrackと言ってもDel MarとKeenelandではベースが異なりますし、個別の問題に個別に対応するしかないのかなという気はします。従前のダートトラックでもどの競馬場に行っても同じではなかったのですから、それは当たり前という気もするのですけれども。
この記事はカリフォルニアで今後ダートに戻したいという競馬場が現れた場合、CHRBはそれを認めるだろうという観測ですが、実際記事中にもあるようにそれは当面不可能でしょう。MECはChapter 11を申請しての再生中ですし、Hollywood Parkは競馬場の存続そのものが議論となっています。Del Marは南カリフォルニアといっても夏のリゾート開催で開催期間が短いため、財政的な余裕がどうかなと。また、Del Marに抜けられてはPolytrackのイメージ悪化が避けられず、Polytrack側が必死に引き留めに掛かるかとは思います。
そうなると残るのはBay Meadowsです。2007年に年内に合成馬場への変更が困難だからと猶予期間を求め、2008年の春開催は認められました。しかしその後は認められず全トラック閉鎖となって、今年のEl Camino Real DerbyなどはGolden Gate Fieldsに代替されています。Bay Meadowsが今どういった状況におかれているのかまでは知らないのですが、ダートトラックのまま再開が申請されたとして認めるかどうかなのかなと思ったり。それだけのものが閉鎖後1年半が経過したBay Meadowsに残っているかどうかだろうけどねぇ。
今後合成馬場の新規導入は、北米のメイントラックに対しては無くなるのではないかなと。ArlingtonにPolytrackを導入したCDIもその後の動きが見られませんし、カリフォルニアのこの結果を見れば、積極的に導入する動機はもう存在しないと思います。結局どこかの記事にもありましたが、現在北米にはダート、芝、合成馬場の三種類のトラックが存在すると認識するしかないのでしょう。
と言ったところでBlood-Horseの集計によるLeading Synthetic Siresの上位10頭を順に並べてみるとStreet Cry、Smart Strike、Bold Executive、Empire MakerA.P. Indy、Unusual Heat、Storm Cat、Tiznow、Tale Of The Cat、Candy Ride。比較としてLeading Sires by North American Earningsから同様にするとA.P. IndySmart StrikeDistorted Humor、Giant's Causeway、Street Cry、Medaglia d'Oro、Tale Of The Cat、Malibu Moon、Unbridled's Song、Stormy Atlanticとなります。出してみたけどあまり参考になりませんね。Unusual Heatは明らかにカリフォルニア基盤の種牡馬だから必然的に合成馬場と芝で稼ぐ形になってしまうのではあるし、Street CryがSynthetic SiresでトップなのはZenyattaの寄与が大きすぎます。ただ、そんな中でDistorted Humorが極端に合成馬場で稼げないという点には注意が必要なのかなと。Hystericaladyが合成馬場では良くなかったのが印象に残っていますが、全体的にDistorted Humor産駒は合成馬場がダメっぽいです、今のところ。Smart Strikeは対照的にどこでも走る。ダートも芝も合成馬場も。