今年のBreeders' Cupを振り返ってみて

Zenyatta: Final Chapter Thus Ends

本当に驚嘆すべきパフォーマンスでした。14戦無敗。あと一つ付け加えれば1世紀を遡るColinの15戦無敗の記録にすら並ぶことになりますが、そこまでやる必要はないか。これほどの牝馬が現役の最後を飾るにはやはりBC Classic以上のレースはありませんしね。牡馬相手に走っていないという批判もこれで成立しません。
牝馬として初めてBC Classicを勝っただけではなく、BCにおいて異なるカテゴリで勝利したのも初めてとなります。これまでそれに近づいた馬としてはJuvenile Fillies勝ちからDistaff2着のStorm Flag Flying、同じくJuvenile Fillies勝ちからFilly and Mare Sprint2着のIndian Blessingが思い浮かびます。複数のカテゴリで出走するだけなら多く出ています。先日種牡馬引退が発表されたGulchにしてもそうですね。ただ、そこで結果を残すとなると別ではあって、Zenyattaの異彩が一際目立つことになるのかなと。
余談ですが、Zenyattaのレースで一つ挙げろと言われたら今年のMilady Hを出します。Life Is Sweetに絶望を味わわせたレースです。コーナーリングもおかしいとしか言い様がないし、見た目以上に派手ですよ。このときはLife Is SweetなんてZenyattaのステープルメイトだし普通に芝に戻るんだろうなあくらいに思っていましたが、これが果たしてLadies' Classicを制圧してしまうとは。
Rachel Alexandraとの年度代表馬争い或いは最強馬論争たるものはアメリカの新聞サイトでも記事としてあちこちに出てきています。どうにも直接対決をしていない、走っていた舞台が違いすぎるとなれば比較も、エルグラスペどころではなく難しく結論など出ないのでしょう。結局のところ合成馬場をダートと芝に次ぐ第三のトラックとして見なすべきというCourier-Journalの主張に納得せざるを得ないわけで。
Choice for Horse of the Year is a toss-up | courier-journal.com | The Courier-Journal
Patrick BianconeはZenyattaに対してこんな馬はSecretariat以来だと絶賛するし、Bob Baffertも「Zenyattaが勝った時はまるで三冠馬が誕生したときのようだった。彼女が選ばれないとしたら何かが間違っているんだ」と得意の表現を使っていますね。Zenyattaを管理するJohn A. Shirreffsは至って冷静で同時受賞するのが一番だと語ったようですが。
この実績でBC Classicを勝っている馬を年度代表馬に選べないのなら、北米競馬って何なのだ的にBaffert師の意見に近いかな。Rachel Alexandraには特別賞を与えてという形に落ち着くんじゃないかな。

連覇した馬とできなかった馬と

今年のBreeders' Cupには連覇の掛かった馬の出走が多くありました。Breeders' Cupは持ち回り開催という性質上、毎年コースが変わることが連覇しにくい原因になっているようには思われ、今回は初めて二年連続で同じSanta Anita開催でこうした馬は条件的に恵まれたことも事実ではありましょう。地味なところではMarathonのMuhannakですし、特に注目されていたのはMileのGoldikovaでしたでしょうか。他にもFilly and Mare SprintのVentura、Filly and Mare TurfのForever Together、TurfのConduitが該当しています。また変則ですが昨年Ladies' Classic、今年はClassicという形になったZenyattaもBCを2年連続勝つということにおいては同じかなと。それだとJuvenile Fillies TurfのMaramが今年はFilly and Mare Turfに出走し、JuvenileのMidshipmanも今年はDirt Mileに出走していました。
これらの中でGI格を有するレースに出走しているZenyattaGoldikova、Conduit、Ventura、Forever Together、Midshipmanは今年も素晴らしいレースでした。勝った3頭は勿論のこと負けたとはいえVentura、Forever Togetherにしても、今年1年間の活躍に相応しいレースを見せていました。一方でMaram、Muhannakについては今年のキャリアにしろBCでのレースにしろあまり良いところがなく、Juvenile Fillies Turfにしろ、MarathonにしろGIへの昇格は当面あり得ないよなという認識を強く持ちました。

欧州馬

今年のBCを勝った欧州調教馬はFM TurfのMidday、TurfのConduit、MileのGoldikovaJuvenileのVale Of York、MarathonのMan Of Iron、Juvenile TurfのPounced。14戦中6勝でGIは4勝。芝のGI3戦を全部持って行かれた上、Juvenileまでというのはかなりやられた印象を持たせるでしょう。MarathonJuvenile Turfは欧州馬に勝たれてもダメージはないと思います。ClassicでもTwice Overが3着に入っていますし、Dirt MileではMastercraftsmanが4着。やはり合成馬場だと欧州馬にかなりのチャンスがあるように見えます。

Julien R. Leparoux got three

今年のシリーズで3勝でした。FM SprintのInformed Decision、Juvenile FilliesのShe Be Wild、Dirt MileのFurthest Landで3勝。レースが増えてますからといえばそれまでになってしまうかな。

Classic double for John A. Shirreffs

John A. Shirreffs師は初日のLadies' ClassicをLife Is Sweetで、二日目のClassicをZenyattaで勝利。BCの歴史上でClassicとDistaffを両取りした調教師はいそうでいなかった。乗り手だとSkip AwayとAjinaでMike E. Smithがやっていますが。

Aidan O'Brien Barn

展望でも書いたけれどMastercraftsmanをDirt Mileに出走させたのが本当に不可解。BC Classicというタイトルを切望するのならば両者をClassicに出走させるべきだったのだろう。MastercraftsmanでDirt Mileを取ることに価値があったとは思えない。Telegraghの記事に言わせれば、このMastercraftsmanRip Van Winkleはそれぞれのレース出走馬で唯一ラシックスを使わなかった馬であると。そして皮肉なことにO'Brien調教馬で唯一ラシックスを使用したMan Of IronがO'Brienの唯一の勝ち馬となったと言う。

Ironically Ballydoyle’s single winner, Man of Iron, was the only horse they did run on medication. This is, of course, not conclusive scientific proof that Lasix aids performance but, like Zenyatta’s victory in the Classic, it tells its’ own story.

Zenyatta captures a nation's hearts at with Breeders’ Cup Classic victory - Telegraph

全体としてイギリス風味の強い、裏読みしたくなる部分の多い記事なので興味のある方は一読あれ。

南カリフォルニアは最高さ

などとぬかしやがったのはLA Times。
Breeders' Cup should make itself at home here
実際この時期の西海岸LA近辺の気候の良さというのは普通に語られるところで、BCに関してもその点で西海岸開催は欧州勢にも評判が良い事情はあります。そしてLAが大都市であることから周辺のインフラの良さなども群を抜いていると。だから毎年Santa AnitaでBCやったら良いじゃねえか。東海岸の陣営が合成馬場に懐疑的なのは知ってるけど、強い欧州馬が遠征してくるよとも。
で、来年Kentuckyの地元紙Courier-Journalあたりが、「合成馬場なんてダメだね。BCはダートでやらないと」的な記事を出すんですね、分かります。
ということで来年はChurchill Downsで、その先はまだ決まっていません。KeenelandはBC誘致するという話が出ていましたが、Kentuckyで連続開催は微妙か。しばらくNYから離れているので主催の立場としてはBelmontに引き受けさせたいんじゃないかという気もしますが。
これまで26回開催されてきましたが、Santa Anitaは5回ホストしています。他はHollywoodが3回、Belmontが4回、Churchill Downsが6回、Gulfstream Parkが3回、Aqueduct、Woodbine、Arlington、Lone Star、Monmouthが各1回ずつ。来年でChurchill Downsが7回目となりますが、ここしかないから的なところはあるのかな。だからKeenelandが誘致したいと言い出しているわけでしょうが。