調教国で見れば1993年のArcangues(フランス)と2008年のRaven's Pass(イギリス)、産国で見れば1991年のBlack Tie Affair(アイルランド)と2006年のInvasor(アルゼンチン)という限られた事例を除いて勝ち馬は調教国も産国もアメリカというのがBreeders' Cup Classicというレース。
2008年と2009年は開催を担ったSanta Anitaが当時プロライドという素材を用いたオールウェザートラックとなっていた。特に初めてオールウェザートラックでの施行となった2008年には、ダート経験がないRaven's PassとHenrythenavigatorが、前年から1年間北米最強の座を守り抜いていたCurlinを葬ったことで物議を醸したこともある。結果的にBreeders' Cupがオールウェザートラックで開催されたのはこの2年のみであり、Santa AnitaとDel Marはメイントラックをダートに戻し、オールウェザートラックは脇役の存在となった。
今年はAidan O'Brien厩舎のCity Of Troyがモーニングラインの一番人気となった。Galileo以降コンスタントに所属馬を送り込んでいたO'Brien調教師だが、今回は2017年のMendelssohn以来となる出走である。果たして悲願の初勝利となるのかどうか。
迎え撃つ北米3歳馬も強力でKentucky Derbyの大敗で三冠には縁がなかったもののTravers Sで世代最強の座を手にしたFierceness、脚質ゆえに勝ち切れないが能力の高さは疑いないSierra Leoneが待ち受ける。また、Kentucky Derbyで3着だったForever Youngも日本でジャパンダートクラシックを勝って再度アメリカに遠征してきている。
古馬勢はやや小粒で、古馬路線のG1馬はいずれも勝ったり負けたりという状況でJockey Club Gold CupとPacific ClassicはどちらもG1初勝利のHighland FallsとMixtoで、Santa AnitaのCalifornia Crownを勝ったSubsanadorはBC自体に出てこなかった。他のG1勝ちはSaudi CupのSenor Buscador、Whitney SのArthur's Ride、Santa Anita HのNewgateが出てくるがいずれもその1戦のみ輝くような状態で、Senor Buscadorがまだマシ程度のレベル。なのでクレーミングレースから成りあがってきたNextが人気になるような状況である。
日本からの遠征馬で去年2着のDerma Sotogakeはあまり順調と言えない臨戦である。一方同じ日本からの遠征馬Ushba Tesoroは7歳になるが順調な臨戦と言える。しかしRiyadhとMeydanでは後ろから差される展開になっており、今回だとSierra LeoneやForever Youngのように末脚がある有力馬がいるのは不利か。
Forever Young: Real Steel - Forever Darling by Congrats
日本産馬、Yoshito Yahagi厩舎、Ryusei Sakai騎乗。
去年、3戦全勝で日本の2歳ダートチャンピオン。今年の前半はKentucky Derbyを最大目標に中東に遠征し、G3 Saudi DerbyとG2 UAE Derbyを勝利した。無敗のままG1 Kentucky Derbyに出走すると直線では従弟のSierra Leoneと直線で熾烈な争いを繰り広げるが、内を突いていたMystik Danを捕えられずハナ差ハナ差の3着となった。帰国後は間隔を空けて前走のG1ジャパンダートクラシックで復帰すると見事に勝利して再び太平洋を渡った。
三代母Roamin Rachelの良血2-b族。Roamin Rachelの産駒にゼンノロブロイが出る他、母Forever Darlingの半妹がG1 Alcibiades Sを勝ったHeavenly Love、そのHeavenly Loveの産駒がSierra Leoneである。
Highland Falls: Curlin - Round Pond by Awesome Again
アメリカ産馬、Brad Cox厩舎、Luis Saez騎乗。
今年本格化した4歳馬。G1 Santa Anita Hでは4着だったが、その後はG2 Oaklawn Hを2着、G3 Blame S勝ち、G3 Monmouth Cupを2着ときて前走のG1 Jockey Club Gold CupでG1初勝利となった。
母Round PondはG1 2勝、BC Distaff勝ちの名牝である。三代母Coral Danceの産駒にBlack Minnaloushe、自身の半兄にLong River、甥にSpeaker's CornerとG1馬が出ており活気のあるファミリーである。CurlinとAwesome AgainでMr. ProspectorとDeputy Ministerがクロスする本格派。
City Of Troy: Justify - Together Forever by Galileo
アメリカ産馬、Aidan P. O'Brien厩舎、Ryan Moore騎乗。
ここまで負けたのは今年初戦だったG1 2000 Guineasの9着のみ。去年の2歳王者にしてDerby馬。G1 Derby後は古馬相手のG1 Eclipse Sも勝ってその能力への疑念を完全に晴らすとG1 International Sでは自ら先頭に立ってレースを作る快勝。
現3歳最強は間違いないところで、Galileo以来のバリードイルの悲願を果たしてくれるかどうか。ダートへの対応そのものは見ているだろうが、レースとなるとまた別のところはあろうしSaratogaででも走っていればなどとも思うものの、それはそれでDylan Thomasがという話である。
母系は9-e族の欧州牝系でCigar Maidからはアメリカだが芝志向が強く、その代表格に自らは1000 Guineasを勝って2000 Guineas馬Haafhdを産んだAl Bahathriがいる。祖母Green Roomは優れた繁殖牝馬でTogether Forever以外にもForever Together、Lord ShanakillというG1馬を出した。Galileoを父とするTogether ForeverとForever Togetherの姉妹のみならずSpeightstown産駒のLord ShanakillをフランスでG1馬にしてしまうほどのファミリーである。
Justifyはトランスアトランティックに活躍馬を出しているが、City Of Troyを除いたとしても最上位の産駒は欧州芝に向いた特徴を持っているとは思われる。
Mixto: Good Magic - Musical Mystery by Concerto
アメリカ産馬、Doug F. O'Neill厩舎、Kyle Frey騎乗。
Del Mar開催の今年は同条件となるG1 Pacific Classicの勝ち馬。それまでは未勝利勝ちでG2の2着までという実績からフロック視されるが、2番手から直線に向いて沈みそうなところを巻き返して逃げたFull Serranoを差し切ったのは評価してよい。
Senor Buscador: Mineshaft - Rose's Desert by Desert God
アメリカ産馬、Todd Fincher厩舎、Joel Rosario騎乗。
去年のBC Classicは7着。今年は初戦からG1 Pegasus World Cupを2着、G1 Saudi Cupを勝ち、G1 Dubai World Cupが3着と好成績を残した。北米ではG2 Pat O'Brien Sの4着で復帰し、前走はG1 California Crown Sを5着。追い込み馬なので展開が向くのを待たねばならないが、現状はそれでも厳しいか。
Derma Sotogake: Mind Your Biscuits - Amour Poesie by Neo Universe
日本産馬、Hidetaka Otonashi厩舎、Christophe Lemaire騎乗。
去年の2着馬だが今年は苦戦している。中東遠征ではG1 Saudi Cupを5着からG1 Dubai World Cupを6着、休養明けの前走は船橋のG2 日本テレビ盃を5着というもの。去年のような状態にないという判断をするか、去年走れなかった日本テレビ盃を走れただけましという判断をするか難しいところではある。
Ushba Tesoro: Orfevre - Millefeui Attach by King Kamehameha
日本産馬、Noboru Takagi厩舎、Yuga Kawada騎乗。
去年は大活躍でG1川崎記念勝ちをステップにドバイに遠征してG1 Dubai World Cupを勝った。その後G2日本テレビ盃勝ちから次はSanta Anitaに遠征するとBC Classicを5着、帰国してG1東京大賞典を勝った。
今年はサウジから中東遠征しG1 Saudi Cup、G1 Dubai World Cupをともに2着。日本に戻ると去年と同じくG2日本テレビ盃をステップにBCに遠征した。今年は3戦全て2着となっている。中東の2戦では自身からさらに後ろから来た勝ち馬に差し切られており、前走は逃げたウィリアムバローズを捕まえられなかった。
9-fの大族Bourtai分岐の主力となるBayouのファミリーに属しているが近親ではボールドブライアンが出る程度。
Pyrenees: Into Mischief - Our Khrysty by Newfoundland
アメリカ産馬、Cherie DeVaux厩舎、Brian Hernandez Jr.騎乗。
G1 Jockey Club Gold Cupの2着馬で、G3 Pimlico Specialを勝っている4歳馬。
母父Newfoundlandでおやっと思ったら、G1 Del Mer Debutanteを勝ったGrace Adlerの半弟でやっぱりそこかとなった。母の半兄がBullsbayで13-c族のShotover分岐だけどBoussacの手に渡らずフランスの影響を受けていないライン。CurlinでMr. ProspectorとDeputy Ministerを押さえていた姉と比べるとStorm CatクロスだけでシンプルなのがPyrenees。
Fierceness: City Of Light - Nonna Bella by Stay Thirsty
アメリカ産馬、Todd A. Pletcher厩舎、John Velazquez騎乗。
去年の2歳チャンピオンでG1 Florida Derby勝ちからの臨戦で一番人気に支持されたG1 Kentucky Derbyでは15着に沈んだが、G2 Jim Dandy Sで復帰戦を勝利するとG1 好メンバーのTravers Sを勝ち切って、北米の3歳トップの立場を手にしている。Kentucky Derbyはかなり特殊な展開にのまれたところはあり、これを無かったことにするとほぼ文句のない結果で、対古馬をやっていないことくらいになる。
A.G. Vanderbilt IIのNow Whatの20号族のうちNow And Againに分かれる分岐で伯父にOutworkが出ている。Miesqueなどのファミリーとは同族であちらはSea-ChangeでVanderbiltの手から離れた分岐である。
Tapit Trice: Tapit - Danzatrice by Dunkirk
アメリカ産馬、Todd A. Pletcher厩舎、Irad Ortiz Jr.騎乗。
前走G2 Woodward Sを勝った4歳馬。G1 Jockey Club Gold Cupでは4着だった。3歳ではKentucky Derbyで2番人気に支持されるほどの期待馬だったが、本番で7着に終わると、G1 Haskell Sが5着、G1 Travers Sが3着と少し期待を外したまま3歳のシーズンを終えた。今年はG3 Monmouth Cupを勝っているがその後は上記の通りである。
叔母にBC Juvenile Filliesを勝ったJaywalkが出ており、Cross TrafficがDunkirkに変わってTapitとなればA.P. IndyとUnbridledのクロスでシンプルな好配合である。
Sierra Leone: Gun Runner - Heavenly Love by Malibu Moon
アメリカ産馬、Chad C. Brown厩舎、Flavien Prat騎乗。
G1 Kentucky Derbyを2着の3歳馬。その後G1 Belmont Sを3着から、G2 Jim Dandy Sを2着、G1 Travers Sを3着と、この2戦はFiercenessに及ばない。どのレースも追い込んで届かずということで、結局Kentucky Derby以降のレースは全て同じと言える。レースの距離に関係なく使える末脚が一定といったところか。ペースが壊れるような展開ならチャンスが来るだろうが、それ以外は勝ち切るまでは難しそう。
血統背景はForever Youngとほぼ変わらないが、父がGun Runner、母の父がMalibu Moonとなっていて、よりスピードが強目という印象。
Arthur's Ride: Tapit - Points Of Grace by Point Given
アメリカ産馬、William Mott厩舎、Junior Albarado騎乗。
去年の11月に初勝利を挙げた4歳馬。重賞初挑戦となったG1 Whitney Sを勝ち、前走のG1 Jockey Club Gold Cupは5着。
Newgate: Into Mischief - Majestic Presence by Majestic Warrior
アメリカ産馬、Bob Baffert厩舎、Lanfranfco Dettori騎乗。
去年はG2 Robert B. Lewisを勝ったが、その後ケガでKentucky Derby戦線から離脱していた。復帰したのは4歳の今年でG1 Santa Anita Hの勝ち馬だが、遠征したG1 Dubai World Cupは9着。Santa Anitaの前哨戦G1 California Crown Sを3着。
Santa Anita Hは中東開催が充実している影響が顕著で出走メンバーを集めるのに苦労するようになっている。
Next: Not This Time - Bahia Beach by Awesome Again
アメリカ産馬、William D. Cowans厩舎、Luan Machado騎乗。
中部から東海岸で安定した成績を残す6歳馬。去年のG2 Brooklyn S以来7連勝中だが、ビッグタイトルはそのBrooklyn Sの連覇にとどまる。G1 BC Juvenileに出走した経験があるが、今回はそれ以来のG1出走となった。
2022年にKeenelandのクレーミングレースで62500ドルで取引されているが、この取引後は12戦10勝と下級戦からとはいえ見違える戦績になった。